発表

2A-036

感情制御方略の使用における年齢差の予備的検討(1)
認知的方略に着目して

[責任発表者] 菅沼 慎一郎:1
[連名発表者・登壇者] 浦野 由平:2
1:防衛大学校, 2:東京大学大学院理学系研究科・理学部学生支援室

目 的
認知的感情制御とはその名の通り,感情体験への認知的な対処を指す。近年,これまで検討されてきた再評価方略以外にも多くの認知方略が存在し,各種方略の使用傾向が精神的健康と関連することが明らかになってきた(e.g., 榊原・北原, 2016)。現在世界的に使用されている認知的感情制御尺度(CERQ)は, 9つの認知的感情制御方略を想定しており,このうち「大局的視点」,「受容」,「肯定的再焦点化」,「肯定的再評価」,「計画への再焦点化」は理論的に適応的な方略として,「自責」,「他者非難」,「反芻」,「破局的思考」は理論的に不適応的な方略として仮定されている(e.g., Garnefski et al., 2001)。CERQを使用した研究のメタ分析を実施した榊原・北原(2016)でも,概ね理論的仮定を支持する結果が得られている。社会情動的選択性理論(Mather & Carstensen, 2005)に基づくと,加齢とともにより効果的な感情制御が行われるようになることが予想されるが,国外では一貫した結果が得られておらず,本邦での検討は寡少である。そこで本研究では(不)適応的な認知的感情制御方略の使用傾向における年齢差及び性差を検討する。

方 法
浦野・菅沼(印刷中)と同様の調査データを使用した。2015年12月に,インターネット調査会社の保有する20代から60代のモニター1000名(男女同数;各年代200名ずつ)を対象としてWEB調査を実施した。対象者はいずれも過去に重大な諦めを体験している者であった(平均年齢:44.56±13.75歳)。冒頭に調査趣旨,倫理的配慮に関する情報を掲載し,同意する場合は以降の調査項目に回答してもらうよう求めた。分析には(1) 年齢・性別, (2)日本語版CERQ (榊原, 2015)を使用した。なお,日本語版CERQを使用する際は榊原(2015)において因子負荷量の低かった1項目を除外し,35項目を使用した。分析にはR(ver.3.4.1)を使用した。

結 果
認知的感情制御方略の使用傾向を従属変数とした階層的重回帰分析を実施した。まず,Step 1で性別,中心化された年齢・年齢の2乗項を独立変数として投入し,Step2にて中心化された年齢・年齢の2乗項と性別の交互作用項を投入した。Table1,2に分析結果を示す。肯定的再評価,大局的視点,肯定的再焦点化,破局的思考,計画への再焦点化で年齢の線形的な効果が有意であった。この結果は,肯定的再評価,大局的視点,肯定的再焦点化,計画への再焦点化では年齢が上がるほど得点が上がるが,破局的思考では年齢が上がるほど得点が下がることを示している。次に,6方略において性別の効果が有意であった。この結果は,これら6種類の認知的方略では男性よりも女性の方が全体として得点が高いことを示している。最後に,年齢と性別の交互作用は,自責においてのみ有意であった(B= -.033, p<.05)。自責は若い年齢では男性よりも女性の得点が高いものの,年齢が上がるとともに男性の得点が女性よりも高くなる傾向になることが示唆された。

考 察
本研究の結果からは,認知的感情制御方略に関しては年齢が高くなることによって適応的な方略の使用頻度が高くなることが示唆される。これは,年齢を重ねる中で様々な発達課題や心理的危機を乗り越え,その中で個々人にあった感情制御スキルを身につけていくという一般的な傾向があることを示唆している。一方で,破局的思考という不適応的な方略については年齢とともに使用頻度が低下することが示唆された。性差については,男性よりも女性の使用頻度が高い傾向が示された。以上から,加齢とともに適応的な認知方略の使用傾向は増加するものの,不適応的な方略の使用傾向が減少するわけではない可能性が考えられる。しかし,ある方略を高頻度で使用することが必ずしも感情制御の成功・失敗につながるわけではない。また,本研究は諦めた体験をした方々を対象としており,サンプリングが結果に影響している可能性も否定できない。今後はコミュニティサンプルを対象として,各年代及び各性別における感情制御のプロセスについてより精緻な検討を進めていくことが求められる。

キーワード
感情制御方略/年齢差/横断データ


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