発表

2A-035

物質使用障害患者の断酒・断薬継続への影響因
―初診3年後予後調査より―

[責任発表者] 板橋 登子:1
1:神奈川県立病院機構神奈川県立精神医療センター

目的
 物質使用障害患者の治療予後について,一般的に,断酒断薬の継続期間が3年以上になると安定した時期に入ると言われるが,物質使用障害では気分障害や衝動制御障害などの合併や,対人的信頼の未確立を背景とした治療継続の困難などから,予後が不良という指摘もある。アルコール(以下Al)依存は治療後の断酒率が追跡期間2年から3年で28~32%1),薬物依存は治療後3~8年経過した時点での転帰による回復率が56.4%2),などの報告が見られるが,国内では依存症の専門医療機関が限られ,治療予後に関する実証的研究に乏しい。今回我々は,依存症専門外来を有する一医療機関の新患を対象にした生活歴聴取や自記式心理尺度,および初診3年後予後調査から,物質使用障害患者の3年間の断酒断薬継続に影響を及ぼす要因を検討することを目的に本研究を行った。
方法
【調査対象者】首都圏にある精神科単科のA病院依存症専門外来における2015年5月~2016年4月の新患で,初診時の自記式調査に回答した380名のうち,物質使用障害の診断を受け,2018年度以降開始の3年後予後調査に回答した194名。主診断が物質使用障害以外となった者,予後調査時に入院中,服役中,行方不明,死亡により家族等の代理回答であった者は除外し,最終的にAl使用障害86名(初診時平均年齢48.7±10.7,男性61名,女性25名),薬物使用障害69名(初診時平均年齢36.1±9.4,男性46名,女性23名)の計155名を分析対象とした。【倫理的配慮】初診時調査はA病院倫理委員会の承認のもと,対象者に文書で調査研究発表に関する説明を行い同意を得た。予後調査は,3年後に電話もしくは面接にて予後調査を行う旨文書で告知し,初診時に書面にて同意を得た。【調査項目】初診時に自記式質問紙として信頼感尺度(天貝,1995),SOC尺度13項目7件法版(山崎,1999),被受容感・被拒絶感尺度(杉山・坂本,2006)を実施した。また,外来カルテ記載から得られる年齢・性別・生活歴・診断名などの基礎情報を整理した。3年後予後は,外来通院継続者には診察日に面接調査を,それ以外の者には電話調査を行った。3年の間で断酒断薬を継続した最長月数,同居家族・配偶者・職・自助グループ参加の有無,希死念慮・自傷自殺未遂行動の有無について聴取した。【分析方法】断酒断薬状況やそれに影響すると考えられる要因についてAl群と薬物群に分類し,連続変数はWilcoxonの順位和検定,名義変数はχ2検定にて比較を行った。断酒断薬継続率は,3年間での最長断酒断薬月数から,3年継続をエンドポイントとしてKaplan-Meier法による生存分析によって求め,Al群と薬物群の2群でlog-rank検定にて比較を行った。また,Al群,薬物群それぞれで,初診時,予後調査実施時の生活背景から2群に分けられる情報を因子としてKaplan-Meier法により断酒断薬継続率を求め,log-rank検定にて比較を行った。さらに,断酒断薬への影響因を検討するために,それらの生活背景に関する情報,年齢,初使用年齢,習慣化年齢,教育年数,初診時実施の心理尺度得点,3年間の勤務継続期間を説明変数として,Cox回帰分析を行った。
結果
 Al群は薬物群に比して初診時年齢が高く,教育年数が長かった。信頼感尺度の下位尺度[自分への信頼][他人への信頼],SOC尺度得点,被受容感尺度はAl群において有意に高く,信頼感尺度の[不信]と,被拒絶感尺度においては薬物群において有意に高かった。初診時の精神科受診歴,逮捕歴,服役歴,精神病症状,自傷自殺企図歴は薬物群において有意に割合が高く,初診時および3年後それぞれにおいて配偶者同居の率はAl群において有意に高かった。断酒断薬月数の平均はAl群14.8±13.7,薬物群26.2±12.8,Kaplan-Meier法による断酒断薬率はAl群0.22(95%CI 0.13-0.30),薬物群0.52(95%CI 0.40-0.63)で,log-rank検定の結果,両者の断酒断薬継続率に差が見られた(χ2=21.02, p < .01)。Al群の中で3年断酒継続に差が見られた項目は,初診前の依存症治療歴(有>無, χ2=7.04, p < .01),3年間での希死念慮の体験(有<無, χ2=5.17, p < .05)であった。Cox回帰分析の結果,初診前の依存症治療歴(p < .05)と初診時実施の信頼感尺度[他人への信頼](p < .05)が3年断酒に関与していた。薬物群の中で3年断薬率に差が見られた項目は,初診前の自傷自殺未遂(有<無, χ2=8.77, p < .01),3年間での自傷自殺未遂(有<無, χ2=13.58, p < .01),3年間での失職体験(有<無, χ2=7.93, p < .01),3年間での参加した自助グループの中断体験(有<無, χ2=6.68, p < .05)であった。Cox回帰分析の結果,3年間での自傷自殺未遂(p < .05)3年間での失職体験(p < .05)が3年断薬に関与していた。
考察
 初診時にAl群よりも薬物群の方が心理社会的により深刻な状況にあるが,Al群の3年断酒率が約22%,薬物群の3年断薬率が約52%と,生活上のトラブルが比較的短期の後に生じる薬物群に比して,困り感を実感しづらいAl群の方が断酒の継続はより困難であった。Al群は,初診以前に専門治療の歴を有する,初診の時点で他者への信頼感が培われているという,初診以前の情報が3年断酒の継続に影響しており,長い専門治療の経過を経て初めて断酒に繋がると推測され,困り感を実感できる動機づけや,治療継続のための信頼関係の構築が重要と考えられる。薬物群においては,初診後の失職や自助グループの中断のような関係性の喪失が再使用に影響していることから,孤立を防ぐ社会的な居場所の確保や,他者と繋がる感覚を実感できる専門治療の充実が望まれる。
引用文献
1)小沼杏坪(2011).薬物依存症に対する治療・処遇と回復支援における光と影―急性期治療から地域生活支援まで― 精神神経学雑誌, 113(2), 172-182.
2)松下幸生(2012).アルコール依存症の治療総論 日本アルコール関連問題学会雑誌, 14(1), 62-67.

キーワード
物質使用障害/長期予後/断酒断薬


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