発表

2A-034

カウンセリングに対する抵抗感を規定する要因の検討 (2)
――感情受容度尺度を用いて――

[責任発表者] 谷口 弘一:1
1:下関市立大学

 問題と目的
 心理的問題に対して,カウンセラーなど専門家の援助を求めることに関する肯定的・否定的態度のことを専門的心理援助要請態度という(Fischer & Farina, 1995)。Komiya et al.(2000)は,アメリカの大学生を対象にして,感情経験の無条件受容,スティグマ,心理的・身体的苦悩,性別の4要因を取り上げ,専門的心理援助要請態度に対する各要因の影響について検討を行った。その結果,4要因いずれもが専門的心理援助要請態度に対して有意な独自寄与を示した。同様の結果は,アメリカの大学に通う留学生を対象にした研究(Komiya & Eells, 2001)においても確認されている。谷口(2018)は,Komiya et al.(2000)や Komiya & Eells(2001)の研究結果の一般化可能性を検討するために,日本人大学生を対象にして,Komiya et al.(2000)と同様の4変数を取り上げ,専門的心理援助要請態度に対する各要因の独自効果について検討を行った。その結果,感情経験の無条件受容とスティグマが専門的心理援助要請態度に対して有意な寄与を示した。谷口(2018)では,感情経験の無条件受容を測定する尺度として,4つの感情経験に対する態度を測定する尺度(Allen & Haccoun, 1976)が使用された。しかし,この尺度は,必ずしも高い信頼性を示していなかった(α = .66)。そこで,本研究では,それとは別の尺度である感情受容度尺度(Emotional Openness Scale; 古宮, 2000)を用いて,感情経験の無条件受容,スティグマ,心理的・身体的苦悩,性別の4変数と専門的心理援助要請態度との関連を再検討した。
 方 法
調査対象者と手続き 大学生・大学院生210名が調査に参加した。分析には,欠損値がない198名(男性72名,女性126名)のデータを用いた。平均年齢は21.2歳(SD = 1.01)であった。調査は,スマートフォンやPCを利用して,ウェブ上で実施された。
調査内容 調査には,年齢,性別など人口統計学的変数を質問する項目に加えて,下記の尺度が含まれていた。(1) 感情経験の無条件受容:古宮(2000)が作成した感情受容度尺度(Emotional Openness Scale)を日本語に翻訳して用いた。回答は4件法であり,分析には各項目の合計点を用いた。得点が高いほど,自分自身の感情経験について無条件に受容的であることを示す。α係数は.80であった。(2) スティグマ:Self-Stigma of Seeking Help Scale(Vogel et al., 2006)の日本語版(宮仕, 2010)を用いた。回答は5件法であり,分析には各項目の合計点を用いた。得点が高いほど,自己スティグマの程度が高いことを示す。α係数は.70であった。(3) 心理的・身体的苦悩:Hopkins Symptom Checklist(HSCL; Derogatis et al., 1974)の日本語版54項目(中野, 2016; Nakano & Kitamura, 2001)から,HSCL短縮版(21-item version of the HSCL; Green et al., 1988)に含まれる21項目を用いた。回答は4件法であり,分析には各項目の合計点を用いた。得点が高いほど,心理的・身体的苦悩の程度が高いことを示す。α係数は.92であった。(4) 専門的心理援助要請態度 Attitudes Toward Seeking Professional Psychological Help: A Shortened Form(ATSPPH-SF; Fischer & Farina, 1995)の日本語版(宮仕, 2010)を用いた。回答は4件法であり,分析には各項目の合計点を用いた。得点が高いほど,カウンセリングを受けることに対して肯定的態度を持つことを示す。α係数は.62であった。
 結 果
測定変数間の関連 専門的心理援助要請態度は,感情経験の無条件受容,スティグマ,性別とそれぞれ有意な相関があった(r = .21, p < .01; r = -.25, p < .01; r = .22, p < .01)。また,感情経験の無条件受容は,スティグマと有意な負の相関があり(r = -.25, p < .01),スティグマは,心理的・身体的苦悩と有意な正の相関があった(r = .33, p < .01)。
専門的心理援助要請態度に対する各要因の独自効果 専門的心理援助要請態度に対する感情経験の無条件受容,スティグマ,心理的・身体的苦悩,性別の独自効果を検討するために,重回帰分析を行った。相関の結果と同様に,感情経験の無条件受容,スティグマ,性別がそれぞれ専門的心理援助要請態度に対して独自の寄与を示した(β = .14, p < .05; β = -.23, p < .01; β = .23, p < .01)。
 考 察
 感情経験の無条件受容が専門的心理援助要請態度の重要な規定因であることが,あらためて確認された。日本を含むアジアの文化的価値観では,一般に,感情を適切にコントロールすることや曖昧で間接的なコミュニケーションを行うことが重視される(e.g., Kim & Omizo, 2003)。そうした文化的価値観を持つ社会であっても,自分自身が経験する様々な感情を抑圧することなく,すべてをありのままに受け入れ,さらには,そうした感情を適切な形で相手に伝えることができる人ほど,カウンセリングに対する抵抗感が少ないことが,あらためて示された。スティグマに関しても,専門的心理援助要請態度を阻害する要因であることが再確認された。自己スティグマを低減するためには,カウンセラーなどの心理専門家が,心理的問題は自分自身の弱さや欠点ではなく,適切な治療によって改善し,元の状態に戻るということを個人や社会全体に広く伝えていく必要があろう。本研究では,性別が専門的心理援助要請態度に対して有意な独自寄与を示した。こうした性差は,男性に対して期待される性役割の特徴(非感情的,理論的,独立的)が援助要請行動を抑制するように機能すること(Komiya et al., 2000),西洋に限らず東洋の文化圏においても同様の性役割期待が存在すること(Komiya & Eells, 2001)が一因であると考えられる。

キーワード
援助要請/感情受容/スティグマ


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