発表

2A-032

大学生の強迫傾向と侵入思考への対処方略の関連

[責任発表者] 指方 賢太:1
[連名発表者・登壇者] 小澤 永治:1
1:九州大学

目的
 強迫症/強迫性障害(Obsessive-Compulsive disorder,以下OCD)は精神疾患のひとつであり,強迫行為と強迫観念の両方,もしくはどちらかの存在が認められる障害である。OCDに類似した強迫性は健常群においても存在し,強迫傾向(Obsessive-Compulsive Tendency)と呼ばれる。強迫傾向は,頻度・強度・苦痛度・コントロール困難性においてOCDに比べ軽い性質を持つが,生活における適応がうまくいかなくなると特徴が増大しOCDの状態になるとされる。そのため,強迫傾向の検討はOCDの予防において重要であると考えられる。
 強迫傾向に関連する要因として,侵入思考への効果的な対処方略が挙げられる。OCD患者は,侵入思考が生じると,強迫行為によって侵入思考から生じた不安を一時的に下げるとされる。結果として強迫行為が強化され,少しでも不安を感じると強迫行為を繰り返してしまうという,悪循環に陥る。そのため健常群における強迫傾向とともに,侵入思考にどのように対処しているか検討することで,効果的な対処方略の知見を得ることができると考えられる。
 以上より本研究では,強迫傾向と対処方略との関連性についてモデルを作成し,検討を行う。
方法
 対象 大学生175名(男性38名,女性137名)に質問紙調査を行った。平均年齢は20.60歳±1.41であった。
 質問項目および手続き 2018年11月~12月に三つの大学において使用した尺度は以下の通り。
(1) フェイスシート:年齢・学年・性別の記入を求めた。
(2) 日常生活用強迫傾向尺度
 先行研究の尺度をもとに,侵入思考,洗浄,確認,正確,優柔不断の5因子を想定し各8項目の全40項目を作成した。
(3) 自己評価式抑うつ尺度(SDS)(福田ら,1973)
 全20項目からなる抑うつの程度を測定する尺度。
(4) 特性不安尺度State-Trait Anxiety Inventory-Trait(STAI-T)日本語版(清水ら,1981)
全20項目からなる特性不安を測定する尺度。
(5) Thought Control Questionnaire日本語版(TCQ-J)(義田ら,2014)
 再評価,罰,社会的コントロール,心配,気晴らしの5因子の全28項目からなる尺度。侵入思考を抑制する傾向,ならびにその抑制の際に使用する対処方略を測定した。
結果
(1) 日常生活用強迫傾向尺度の検討
 本研究で作成した強迫傾向尺度の全40項目を用いて最尤法による因子分析を行った。結果,想定した5因子構造が確認された。性差についてはどの因子も有意差が見られなかった。
(2) 強迫傾向と侵入思考への対処方略との関連性
 TCQ尺度と強迫傾向尺度の各因子の平均得点間に,有意な相関が得られた。強迫傾向と対処方略との関連性について詳しく調べるため,パス解析を行った。侵入思考への対処方略が強迫傾向に影響し,抑うつと特性不安に影響を与えるモデルを想定し分析を行った。モデルの適合度はGFI = .969,AGFI = .927,RMSEA = .046,χ^2 (19) = 26.14,p = .13であり,十分な値が得られた(Figure. 1) 。
考察
(1) 強迫傾向尺度の構成と妥当性
 従来の尺度では十分に測定されてこなかった“正確”に関する因子が抽出され,今後強迫傾向を測定する上での使用が期待される。しかし,性差については,先行研究と異なり有意な結果が得られなかった。今回の調査対象では,女性137名に対し,男性は25名と差があった。そのため,今回得た性差についての結果を一般化するのは難しい。また,本尺度をOCD患者に対しても調査を行い,臨床的妥当性とカットオフについて検討していく必要がある。
(2) 強迫傾向と侵入思考への対処方略との関連性
 侵入思考への再評価については,STAI-T,抑うつへの直接的な影響は見られなかったが,侵入思考を介して抑うつ,STAI-Tに影響を与える可能性が示唆された。侵入思考は本人の意図と関係なく生じるもので,本人にとって不快である。そのため,侵入思考の意味を見直すことは困難であり,再評価が適応的に作用せず抑うつや状態不安が高まってしまうと考えられる。また,本研究では侵入思考の制御困難性を下げる可能性のある方略は明らかにすることができなかった。今後は,質問紙だけでなく,実験的に検討を行い,有効な方略について検討していく必要がある。
引用文献
福田一彦・小林重雄 (1973). 自己評価式抑うつ性尺度の研究. 精神神経学雑誌,75,10,673-679.
清水秀美・今栄国晴 (1981). STATE-TRAIT ANXIETY INVENTORYの日本語版(大学生用)の作成. 教育心理学研究,29,348-353.
義田俊之・中村知晴 (2014). Thought Control Questionnaire日本語版の開発. 応用心理学,39,3,236-245.

キーワード
強迫傾向/対処方略/大学生


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