発表

2A-029

日本語版子ども用怒りの反すう尺度の因子構造の検討

[責任発表者] 下田 芳幸:1
[連名発表者・登壇者] 寺坂 明子#:2, 石津 憲一郎:3, 大月 友:4
1:佐賀大学, 2:大阪教育大学, 3:富山大学, 4:早稲田大学

問題と目的
 中学生の暴力行為件数は多い状態が続いているが,誘発要因の一つに怒り感情がある。怒り感情自体は自己への脅威事態などで生じる自然な感情であるが,怒り感情が必要以上に強くなることにより,自他への攻撃行動の誘発やどのメンタルヘルスの悪化をまねくといった危険性がある。
 怒り感情を強める要因の一つに,怒り感情やそのときの出来事等をくり返し考える,「怒りの反すう」が挙げられる(Sukhodolsky et al., 2001)。先行研究では,ネガティブ感情(Stoia-Caraballo et al., 2008),攻撃性(Takebe et al., 2016),精神的健康(Izadpanah et al., 2017)などとの関連が示されているが,子どもの怒り反すうを測定する日本語の尺度はまだなく,知見に乏しい状況にある。
 そこで本研究は子どもの怒りの反すう研究の端緒として,海外で作成された子ども用怒りの反すう尺度を日本語に翻訳し,中学生における因子構造について検討することとした。

方法
○調査協力者リサーチ会社マクロミルに登録している中学生206名(男子72名,女子134名。平均14.02歳,SD=0.73)。
○調査内容:Children’s Anger Rumination Scale(CARS: Smith et al., 2016)を筆者らが原著者の許可を得て翻訳・逆翻訳のプロセスを経て作成した日本語版。原尺度は怒り記憶5項目,怒り再考6項目,報復思考4項目,原因究明4項目の計19項目(4件法)からなっている。
○調査時期・手続き:2019年1月に,リサーチ会社を通じてオンライン調査を行った。協力者には会社を通じて所定の謝礼が支払われた。

結果
 並行分析の結果,因子数3が提案された。探索的因子分析(最尤法・独立クラスター回転法)の結果,原尺度と同じ4因子では因子構造が大幅に異なり,2項目で構成される因子も見られた。3因子での結果は以下の通りである。
 第1因子は怒り再考5項目・怒り記憶3項目・報復思考1項目からなり,当該場面を考え続けたり,思い出して腹が立ったりしている項目が多かったことから,“記憶の再活性と感情の持続”と命名した(α=.90)。第2因子は報復思考3項目・他の3下位尺度各1項目からなり,仕返しや暴力的な想起といった内容からなるため,“仕返しや攻撃の想起”と命名した(α=.83)。第3因子は原因究明3項目・怒り記憶1項目からなり,腹がたった理由や状況について考える項目であることから,“原因究明と状況理解”と命名した(α=.77)。

考察
 CARSの元の成人用尺度では当初,怒り記憶の想起,非現実的な攻撃思考,現在の怒り体験への注意という3領域が想定されていた(Sukhodolsky et al., 2001)。今回抽出された3因子は,この想定におおむね対応していると考えられる。
 因子構造が異なった理由として2点考えられる。1つめは日本語の表現が因子の差異を十分に反映しきれていない可能性であり,表現の工夫・改善等が検討課題である。
 2つめはアメリカと日本の子どもの反すうの構造が実際に異なるという可能性である。原尺度の「怒り再考」と「怒り記憶」は,当該の出来事が以前または直近に起こったかによって区別されているが(Sukhodolsky et al., 2001),日本の中学生にとって出来事の時間的差異は重要でないため第1因子にまとまった可能性がある。また,第2因子に含まれた項目のうち,“口げんかが終わった後も,頭の中でそのケンカの続きをする”は原尺度で「怒り再考」に含まれていた。日本の中学生においては,想起しケンカの続きの中に相手へ勝つことが含まれ,記憶の想起より仕返しに近い機能を有するのかもしれない。同様に,同じ第2因子の“以前あったケンカについてどうしても考えてしまうことがあった”は,原尺度では「原因究明」の項目であったが,日本の子どもにとっては,ケンカについて思い出すことは,原因よりもむしろその結果,すなわちケンカに勝つという結果を想起することが重要なのかもしれない。こういった文化的な差異について,今後の検討が必要である。
 なお原尺度は,成人版尺度を子ども用に改変する際に探索的因子分析は行わず,確認的因子分析の結果によって成人版と同様の因子構造が妥当である,としている。そこで日本語版CARSも,原尺度と同じ項目構成の4因子での確認的因子分析を行ったところ,CFI=.871,RMSEA=.088[95%信頼区間: .078-.099],SRMR=.075であった。したがって,原尺度と同じ因子構造でもある程度データと適合すると思われる。なお各尺度の内的一貫性(α係数)は,怒り記憶が.79,報復思考が.70,怒り再考が.86,原因究明が.77と,やや低いながら許容範囲であった。よって原尺度と同じ4下位尺度構成でも,ある程度の知見が得られると考えられる。これは原尺度を用いた海外の研究知見を活用したり,研究結果を比較したりする際に有益であろう。

主要引用文献
Smith, S. D., Stephens, H. F., Repper, K., & Kistner, J. A. (2016). The relationship between anger rumination and aggression in typically developing children and high-risk adolescents. Journal of Psychopathology and Behavioral Assessment, 38, 515-527.
Sukhodolsky, D. G., Golub, A., & Cromwell, E. N. (2001). Development and validation of the anger rumination scale. Personality and individual differences, 31, 689-700.
(本研究は科学研究費事業の助成を受けた:18K03099)

キーワード
怒り/反すう/中学生


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