発表

2A-028

マインドフルネス実践が臨床心理実践者のストレスマネジメントおよび臨床実践に与える影響
臨床心理士訓練過程の学生のワークショップ体験をもとに

[責任発表者] 稲吉 玲美:1
[連名発表者・登壇者] 本田 由美#:2, 勝又 結菜:3, 馬場 絢子:3, 髙橋 美保:3
1:広島修道大学, 2:神経科赤坂クリニック, 3:東京大学

目的
 本研究では,対人援助職のストレスマネジメントとして近年注目されているマインドフルネス(mindfulness; 以下,MF)の実践が,臨床心理実践を学ぶ学生(以下,臨床心理実践者と呼ぶ)のストレスマネジメントおよび臨床心理実践に与える影響について,その構造とプロセスに着目して検討することを目的とした。
方法
 臨床心理士指定大学院であるA大学院臨床心理学専攻の院生11名を対象に,MFを体験するワークショップ(Workshop; 以下,WS)を開催した。2018年9月~2019年3月にかけて,週1回約30分,全26回のセッションを実施した。4回毎に異なるテーマと実践が設定され,参加者は全てのテーマに1回以上参加することを求められた。この条件を満たした9名中,参加回数が7回以上であった5名に半構造化インタビューを実施し,WS体験による自分自身や自身の臨床心理実践の変化について尋ねた。インタビューはWSの最終セッションから1~2週間後,約40~60分実施された。得られたデータを逐語録に起こし,修正版GTAを参考にした手法を用いて分析を行った。分析テーマとして,1) WSにおけるMF体験がどのような形で,どのようなプロセスを経て日常に汎化するか,2) MF体験や日常での活用がどのような形で臨床心理実践に影響を及ぼすか,の2点を設定した。本研究は東京大学倫理審査専門委員会の承認を受けて実施した。協力者へは,WS参加前とインタビュー実施前の2度,研究に関する説明を行い,同意書への署名を以て協力の意思を確認した。
結果と考察
 分析の結果,26の概念および21の下位カテゴリ,7のカテゴリが生成された。以下,カテゴリを< >,下位カテゴリを【 】と表記し,ストーリーラインを示す。
 毎週開催されていながら参加頻度は自身の意思に委ねられるという【WSの緩やかな枠組み】の中での【WSによる継続的な実践】,そして実践を通して気づく【MF体験とその他の知識・体験との結びつき】が,参加者にとって<WSと日常をつなぐ要素>として働いた。<日常生活への浸透プロセス>としては,強い動揺や苛立ちが生じたときなど,各々の日常生活の中で【MF活用のニーズ】を感じる。その際,呼吸や身体感覚に注意を向けるなど,WSでの体験を試みることで【効果を体感したエピソード】を得,MFへの理解が体感的に深まり,日常に活かされる機会が増加する。そして,MFに対する当初のイメージよりも簡単に,自然に使いこなせる意識が芽生え,本格的な瞑想実践ではなく【「エッセンス」としての自然な活用】を行うようになる。このプロセスを通じて,参加者は【気づきの向上】【注意制御スキルの向上】【反応しない態度の向上】【意識的行動の向上】といった<MF実践による自身の変化>を実感し,さらにMFの活用が促進される。一方,【元来備えているMF的特性】から,WSによる自身の主観的な変化は感じなかった者もいた。こうしたWS参加および日常生活でのMF活用により,自身に対する【「コントロール感」の獲得】と【MFが身体に染みついてきた感覚】が得られる。参加者の中には,困難の探索を積極的に楽しむ者もいる一方,困難を扱うことに対するハードルの高さを感じている者もいた。自身の認知的・感情的問題に対するMFの活用には【汎用のレベル差】があるものの,全般的には,各々のMF観に基づき<MFが「身に付く」感覚>が抱かれていた。
 MFを用いたストレスマネジメントは,臨床心理面接後の自身の疲弊や感情の揺れへの対処や,面接におけるクライエント(Client; 以下,Cl)の感情のより丁寧な扱いなど,【臨床心理実践における自他の感情の扱い】に応用される。さらに,これまで学習した心理療法や実習における体験の理解が進む,面接におけるClの状態のアセスメントにMF体験が活かされる,カンファレンスにおいて発表者にオープンに接する,といった【臨床心理実践の学習への効果】が実感される。参加者は,これらMF体験による自身の<臨床心理実践への取り組みの変化>を感じていた。
 その一方,臨床心理実践者の訓練過程では様々な体験をしており,日常および臨床心理実践における自身の変化については,一概に<MFの効果と断定する難しさ>が語られた。
 面接内でMFを用いた介入を行うことについては,【MFの良さの実感による導入の検討】がなされていた。導入にあたっては,本格的なMFトレーニングとしてではなく,自身が効果を感じた内容に焦点づけた【「エッセンス」としての導入】が検討されていた。一方,WSによる体験のみではなく,専門性を伴った状態で導入しなければならないという【習得度の低さによる実践への導入への懸念】や,自分にとって良かったという【自分の実感からClに勧めることへの危惧】といった指摘もあり,<臨床心理実践へのMF導入の功罪>について検討する必要性が示された。
総合考察
 臨床心理実践者は,自身の認知的・感情的困難に対してMF実践を試みることにより,その効果を体感的に理解するとともに,自分なりのより簡単で自然なMF観を確立することが示唆された。こうした「エッセンス」としてのMFの活用は,臨床心理実践場面においても自身およびClの感情の扱いに応用され,さらには,MF体験が臨床心理実践の学習を促進する可能性もうかがえた。面接におけるMFの導入については,自身が効果を感じている「エッセンス」を用いることへの功罪を検討する必要性が提示された。今後は,本研究において得られた観点から,量的調査による効果検討も含めたより詳細な検討の必要があるだろう。

キーワード
マインドフルネス/心理職養成/インタビュー調査


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