発表

2A-027

様々な心理的症状に対するメタ認知療法の効果検証
考え続ける義務感の低減をターゲットとして

[責任発表者] 向井 秀文:1
[連名発表者・登壇者] 杉浦 義典:2
1:久留米大学, 2:広島大学

目 的
 メタ認知療法とはWells(2009)のメタ認知モデルに基づいて開発された治療技法である。メタ認知モデルでは,心配の有用性に関する信念であるポジティブ信念と心配の制御不能性に関する信念であるネガティブ信念といった二種類のメタ認知的信念が,ネガティブな反復思考を高めることによって,様々な心理的症状の形成に寄与すると考えている。このことから,メタ認知療法では,主にポジティブ信念とネガティブ信念の低減を目指して介入を行う。
 一方で近年,反復思考や様々な心理的症状に対するポジティブ信念の予測力は非常に弱いことが報告されている(向井・杉浦,2018)。さらに,ポジティブ信念と同様に反復思考の頻度を高める役割を有することが明らかにされている考え続ける義務感(Sugiura, 2007)は,反復思考や様々な心理的症状を強く予測するネガティブ信念と同程度の予測力を有することが報告されている(向井・高岸・杉浦,2018)。
 従来のメタ認知療法では,様々な心理的症状に対する予測力が強いネガティブ信念の低減をターゲットとした後,再発予防を目的としてポジティブ信念の低減をターゲットとした介入が行われていた。この点に関して,考え続ける義務感の低減をターゲットとすることによって,ポジティブ信念とネガティブ信念といった二種類のメタ認知的信念への介入を統合することが可能となり,治療の効率性を高めることに寄与すると考えられる。
 以上から,本研究では考え続ける義務感の低減をターゲットとしたメタ認知療法の効果検証を行うことを目的とする。
方 法
対象 Kesller-10日本語版(古川他, 2003)を実施し,不安や抑うつといった心理的苦痛が強い大学生34名(8点以上)を抽出後,参加者の協力を得た。
質問紙 考え続ける義務感:問題解決に関連したメタ認知的信念尺度(Sugiura, 2007)の考え続ける義務感,ネガティブ信念:MCQ-30(Sugiura, 2007)のネガティブ信念尺度,RNT:PTQ(Sugiura et al., 2016),全般性不安:GAD-7(松村他,2010),抑うつ:PHQ-9(松村他,2009),社交不安:SIAS(金井他,2004),強迫症状:OCI-R(Sugiura et al., 2015), 健康不安:SHAI(山内他, 2009), 摂食症状:EAT-26(Mukai et al., 1994)。
介入手続き K-10の得点が高い順番に交互に介入群と統制群に振り分けを行った。最終的には,介入群13名,統制群12名を分析対象とした。考え続ける義務感の低減をターゲットとした介入プログラムは,Wells(2009)のメタ認知療法を参考に作成した。個人介入を計5回実施した。なお,質問紙は,介入前,介入後,フォローアップの3時点で実施した。
結 果
対応のあるt 検定による計画的比較 
まず,介入群における各指標のpre時点とfollow時点の得点差を検討した結果,RNT,ネガティブ信念,考え続ける義務感,全般性不安,抑うつ,健康不安,社交不安,強迫症状において有意差が認められた(順に,t(12)=8.02, p<.001;t(12)=2.83, p<.05;t(12)=6.03, p<.001;t(12)=3.48, p<.01;t(12)=4.08, p<.01;t(12)=4.82, p<.001;t(12)=3.47, p<.01;t(12)=3.41, p<.01)。一方,摂食症状には有意差が認められなかった(t(12)=1.54, n.s.)。
 次に,統制群における各指標のpre時点とfollow時点の得点差を検討した結果,ネガティブ信念と考え続ける義務感に有意傾向が認められ(順に,t(11)=1.81, p<.10;t(11)=1.91, p<.10),RNT,全般性不安,抑うつ,健康不安,社交不安,強迫症状,摂食症状には有意差が認められなかった(順に,t(11)=1.20, n.s.;t(11)=.99, n.s.;t(11)=.90, n.s.;t(11)=1.42, n.s.;t(11)=.33, n.s.;t(11)=.96, n.s.;t(11)=.51, n.s.)。
効果量(Cohen’s d)の算出
 Cohen’s dは,d値が.30未満が効果量が小さいことを意味し,.30以上.80未満が効果量中程度,.80以上が効果量が大きいことが報告されている(Cohen, 1988)。
 まず,介入群におけるpreからpost,preからfollowにおける各指標の効果量の算出を行ったところ,RNT(順に,d=1.10;d=2.39),ネガティブ信念(順に,d=.72;d=1.07),考え続ける義務感(順に,d=1.63;d=2.22),全般性不安(順に,d=.67;d=.89),抑うつ(順に,d=1.00;d=1.24),健康不安(順に,d=.93;d=1.24),強迫症状(順に,d=.58;d=.83)に中程度から大きな効果量が認められた。社交不安(順に,d=.11;d=.49)と摂食症状(順に,d=.38;d=.46)には,小さい効果量から中程度の効果量が認められた。
 次に,統制群におけるpreからpost,preからfollowにおける各指標の効果量の算出を行った。その結果,RNT(順に,d=-.05;d=.27),ネガティブ信念(順に,d=-.02;d=.49),考え続ける義務感(順に,d=-.08;d=.27),全般性不安(順に,d=-.07;d=.34),抑うつ(順に,d=-.16;d=.16),健康不安(順に,d=-.09;d=.34),社交不安(順に,d=.10;d=.05),強迫症状(順に,d=-.12;d=.26),摂食症状(順に,d=.20;d=.07)であり,介入群の効果量と比較すると,極めて小さな効果量であることが示された。
考 察
 考え続ける義務感の低減をターゲットとしたメタ認知療法は,診断横断的な要因の一つとされている反復思考や様々な心理的症状の低減に有効であることが示された。以上から,考え続ける義務感に対する介入は,従来のメタ認知療法におけるネガティブ信念とポジティブ信念への介入を統合し,介入期間の短縮をもたらすだけでなく,様々な心理的症状の低減にも寄与することが明らかとなった。

キーワード
診断横断的アプローチ/メタ認知療法/考え続ける義務感


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