発表

2A-025

アニメ視聴による心理学的体験の構造化に関する研究

[責任発表者] 藪田 拓哉:1
[連名発表者・登壇者] 佐々木 淳:1
1:大阪大学

【背景と目的】
 心理療法は言葉だけでなく,音楽療法や読書療法など媒体を用いたものが開発され,治療効果をあげている。近年では,インターネットやSNSによって心理療法を提供する iCBT(internet cognitive-behavioral therapy)に注目が集まっている。中でもニュージーランドの研究チームは10代の自殺率の高さを憂慮し,認知行動療法に基づく本格的な3DRPGゲーム「SPARX」を開発した。抑うつの寛解率が43.7%であったことから,うつ症状をもつ青少年にとって,これまでの治療に取って代わる可能性があると結論付けている(Sally et al.,2012)。
 つまり,どのような心理療法をいかに気軽に,そして利用者にマッチした心理ケアとして提供できるかが重要な課題と言える。治療という構えをできるだけ低くし,利用者が気軽で身近な利用しやすい媒体を用いることは,治療への意識だけでなく治療の継続という観点からも非常に意義があると考えられる。本研究ではその媒体として映像メディア,とりわけアニメに注目した。
 アニメ研究は心理学,社会学,教育学,芸術学などさまざまな分野で学際的に行われている(横田・池田・小出,2012)。その中で臨床心理学では,キャラクター・作品分析,アニメから人間の心理・日常を模索する研究(横田,2006;横田,2016など)やアニメや漫画について語ることの臨床心理学研究(笹倉,2010)などがある。
 以上のようにアニメを扱った研究はなされているが,臨床心理学ではアニメを題材に心理現象を考察する研究が多く,心理学的な枠組みを使って実証的に検証する研究が少ない。同様にアニメ視聴による人の認知,行動への影響や,アニメを媒体としたアニメ療法といった臨床心理学的応用を目指した研究もほとんどない。そのためアニメを用いた心理療法を提案する以前に,その前提としてアニメによって生じる心理的な感情や認知の変化に関する実証的な基礎研究を行う必要がある。本研究は,介入法提案のための基礎研究として,アニメ視聴によって視聴者に生じた心理学的体験を実証的に明らかにし,整理することを目的とした。
【方法】
 大学生・大学院生58名(平均年齢23.3,SD=5.63)に自由記述式質問紙による調査の協力を依頼した。質問紙は年齢や所属など回答者の情報とアニメの視聴習慣を尋ねた後,「今まで視聴したアニメの中で,気持ちや考えに響いた,心を動かされた体験」について質問を行った。すなわち,(A)作品名,(B)シーン,(C)時期・状況,(D)視聴により生じた感情・認知(回答必須項目),(E)その結果生じた心理面,行動面などの自分自身への変化・影響,の5つの側面から質問し,複数回答を可とした。分析は第1著者と2名の協力者で実施した。収集されたデータは5つの項目ごとにKJ法(川喜田,1967)によって分類・整理した。なお,研究の実施には所属大学の倫理委員会の承諾を得ている。
 【結果】
 データ欠損のため3名を分析から除外した後,5つの側面のいずれかに記述があった回答は80個あった。(A)作品数は67作品,(B)シーン数は70シーン,(C)時期・状況は75個得られた。
 (D)視聴により生じた感情・思考は119個にまとめられ,4つのテーマへと分類・整理された。その4つとは,(1)「気持ちの高揚」(泣く,感動,没入,興奮など),(2)「アフェクト体験」(気晴らし,今ここからの離脱,ネガティブな感情体験・同一化など),(3)「現実への還元・関連」(教訓を得る,他者への思いの意識・再確認など),(4)「作品の構成要素に対して魅力を感じる」(キャラクターや作品への感情や評価・感想など)であった。
 (E) その結果生じた心理面,行動面などの自分自身への変化・影響は76個にまとめられ,4つのテーマへと分類・整理された。その4つとは,(1)「ポジティブな自己変容」(活力を得る,ストレス・抑うつの軽減,精神面の強化など),(2)「真理に近づく体験」(人間観,人生についての考えの取入れなど),(3)「作品への関与と作品を越えた活動」(聖地巡礼などの行動化,他作品の派生など),(4)「人との関わりの深まり」(楽しみの共有,他者の理解の深まり・関わりの変化など)であった。
【考察】
 本研究で得られた知見は以下の3点であると考えられる。第一に,視聴によりニュートラルな状態あるいはネガティブな状態からポジティブな状態への変容に関する回答が多かった。したがって,ストレスの発散や気分の向上といった「抑うつ気分の解消」になり,ストレスの蓄積を防ぐことが予想される。
 第二に,教訓・人間観・人生観を考えるきっかけを提供されることで,新たな視点取得や現実への還元が起きていた。したがって,自分自身の心に響く体験や他視点取得・客観視により,自己理解・受容・変容に繋がると考えられる。
 第三に,感情・認知への短期的な影響は多かったが,行動化やより深い自己変容といった長期的な影響に達するには作品要因や視聴者要因が絡んでおり,個人差が大きいことが明らかになった。したがって,効果的な介入のためにマッチングが大切であると考えられる。
【参考文献】
 横田正夫 (2006). アニメーションの臨床心理学. 誠信書房.
 横田正夫・池田宏・小出正志(編)(2012). アニメーションの事典. 朝倉書店.

キーワード
アニメ療法/アニメ視聴/KJ法


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