発表

2A-024

健康生成モデルにおいて汎抵抗資源の多様性と首尾一貫感覚がストレス反応に及ぼす影響 その1
媒介効果と調整効果

[責任発表者] 今井田 貴裕:1
[連名発表者・登壇者] 福井 義一:2
1:甲南大学, 2:甲南大学

目 的
 健康生成モデルにおいては,ストレス対処能力とみなされる首尾一貫感覚(Sense of Coherence:SOC)が汎抵抗資源(General Resistances Resources:GRRs)を動員することによってストレス反応を緩和するとされている(Antonovsky, 1987)。GRRsとは,ストレッサーの対処に効果的な資源の総称であり,6つの領域(生物化学的,物質的,認知的・感情的,価値態度的,対人関係的,社会文化的)が仮定されている(Antonovsky, 1979)。これまで,それぞれのGRRsのストレス反応に対する有効性について個別に検証されてきたものの,ストレッサーを統制すると,どのGRRsについてもSOCの媒介・調整効果は失われ(今井田他, 2016a, 2017a-d, 2018a, b: Imaida et al., 2017),同モデルに適合する人々も抽出されなかった(今井田他, 2016b, 2017e-i, 2018c, d, 2019)。
しかし,ストレッサーの対処には多様なGRRsが必要であるという仮説(Antonovsky, 1987)を鑑みると,ストレッサーを統制してもGRRsさえ多様であれば,健康が保たれる可能性がある。上述した報告では,個別のGRRsの効果しか検証していなかったせいで,十分なGRRsの緩和効果が確認されなかったのかもしれない。そこで,本研究ではGRRsの多様性がストレス反応に及ぼす影響に対するSOCの媒介・調整効果を検証することで,健康生成モデルの妥当性を検討した。
方 法
分析対象者:大学生対象の大規模データベースCAASK2(福井他, 2017)から,本研究で用いた尺度に回答した平均年齢19.82歳(SD = 1.16)の197名(女性112名,男性85名)を分析対象とした。データは,今井田他(2016a, b, 2017a-i, 2018a-d, 2019)やImaida et al.(2017)と重複がある。
尺度構成:GRRsを,精神的回復力尺度(小塩, 2001),生き方尺度(板津, 1992),日本語版ソーシャル・サポート尺度(Zenit, 1988; 岩佐, 2007),情報処理スタイル尺度(内藤他, 2004),多次元自我同一性尺度(谷,2001),心の硬さ尺度(山下, 2012),spirituality評定尺度(比嘉, 2002),WHOQOL26(WHO, 1997; 田崎・中根, 2007),日本版生き方原則調査票(Peterson & Seligman, 2004; 大竹, 2005)で包括的に測定した。なお,心の硬さ尺度については,各項目得点を逆転し,GRRsの一つである柔軟性を測定する尺度として使用した。また,日本版生き方原則調査票については,勇気や節度といった6領域を構成する24の各下位尺度から ,因子負荷量が高いとされる各2項目を合計した48項目を用いて,各領域の得点を算出した。各尺度得点の理論的中央値より高い場合は1,低い場合は0とコード化し,それらの合計をGRRsの多様性得点とした。ストレッサーを大学生用日常生活ストレッサー尺度(嶋, 1999)で,SOCを日本語版SOC-29(山崎, 2001)で,ストレス反応を大学生用ストレス評価度尺度改訂版(尾関, 1993)の該当項目で,それぞれ測定した。
結 果
まず,GRRsの多様性がSOCを媒介してストレス反応に及ぼす影響を構造方程式モデルで検討した結果をFigure 1に示した。GRRsの多様性は認知・行動的ストレス反応を直接的に緩和しただけでなく,SOCを媒介して全てのストレス反応を緩和した。
次に,GRRsの多様性がストレス反応に及ぼす影響におけるSOCの調整効果を検討するため,各ストレス反応を従属変数,Step 1にGRRsの多様性,Step 2にSOC,Step 3に両者の一次の交互作用項をそれぞれ独立変数として投入した階層的重回帰分析を行った結果,いくつかの交互作用項が有意であったため,単純傾斜の検定を行った。その結果,GRRsの多様性が情動的ストレス反応を緩和する効果は,SOCが高い人ほど顕著であることが確認された。ただし,ストレッサーを統制すると,SOCの媒介効果と調整効果はほぼ消失してしまい,GRRsの多様性の直接効果のみが残った。
考 察
GRRsの多様性がストレス反応を緩和する効果に対するSOCの媒介・調整効果は,個別のGRRsで検討した場合と同様に,ストレッサーを統制するとほぼ消失することが分かった。この理由として,一般大学生は日常的に体験するストレッサーの強度が低く,その対処経験も少ないため,GRRsやSOCが未発達であること(今井田・福井, 2019)が考えられる。一般大学生におけるSOCの機能は,健康生成モデルが見出された収容所体験の生還者(Antonovsky, 1979)に比べて,ストレッサーに脆弱なのであろう。
他方,GRRsの多様性からSOCへのパス係数の値は,個別のGRRsを投入したとき(今井田他, 2016a, 2017a-d, 2018a, b; Imaida et al., 2017)よりもかなり高かった。そのため,個人が持つGRRsが多様であればあるほど,SOCの持つ資源の動員力が強まる可能性が示唆された 。
以上から,ストレッサーの統制下であってもGRRsが多様である場合には,SOCが機能する一般大学生が存在する可能性があることが分かった。

キーワード
健康生成モデル/汎抵抗資源/首尾一貫感覚


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