発表

2A-022

心理臨床実践における支援方針の選択と決定に関する質的研究
―クライアントにとっての「幸せ」をふまえて―

[責任発表者] 本多 綾:1
[連名発表者・登壇者] 藤田 博康:1
1:駒澤大学

問題と目的
 面接場面において,カウンセラーは様々な選択肢の中から,クライアントにとっての「幸せ」を目指し,最善の方向性を選び取ろうとしている。
 そもそも,クライアントとは自身の「幸せ」を求める一人の人間であり,幸福感は基本的に主観的な過程とも言われる。実際のセラピーでも満足度に影響し,受けたセラピーと自分の選好(Preferance)が同方向のクライアントは,より満足度が高く,より症状が改善する傾向がある(Berg,Sandahl, & Clinton,2008)。一方のカウンセラーは,経験年数や実践領域により,主に用いる心理療法理論や学派に違いが見られる(笠井,2016)。また,中には自分が支持する流派以外の技法を頻繁に使う者がいることや,どの流派に属していたとしても大部分のカウンセラーたちが共通に用いている一連の中核的なセラピーの技法があることなども明らかになっている(Thoma&Cecero,2009)。これらの事から,カウンセラーは実践経験等を踏まえて,自分なりのクライアントにとっての「幸せ」に対する想いやイメージを抱えているとも考えられ,また,それがさらに臨床実践にも影響しているものと思われる。以上を踏まえ,本研究では,カウンセラーの考えるクライアントにとっての「幸せ」とはどのようなものか,そして,そのためにどのような介入援助が行われているのかを明らかにしようと試みた。
方法
 臨床心理士資格を有し,10年以上の実践経験を持つカウンセラー6名を対象とした。本研究の目的に沿ったインタビューガイドを作成し,1時間半から2時間の半構造化インタビューを行った。その際,原則として援助が奏功して特に印象に残っているケースを思い浮かべてもらった。分析にあたっては,各種の質的分析法を参考にしながら,クライアントにとっての「幸せ」へ向けたカウンセラーの取り組みのプロセスを抽出できるように独自の分析を工夫した。なお,本研究は,駒澤大学「人を対象とする研究」に関する倫理委員会による倫理審査にて承認を得ている。
結果と考察
援助の鍵となる段階 それぞれのカウンセラーの語りに沿って,カウンセラーの取り組みと,クライアントの変化に関する鍵となる段階を分析したところ,5段階が抽出された。まず第一段階は,面接初期に感じるクライアントに対する「カウンセラーの違和感と迷い」である。この段階でカウンセラーが体験する違和感は見立ての大きな助けとなっており,中でもクライアントが正当な感情の表出ができているかどうかという点に着目する事が多かった。次に第二段階として「方向性の決定と共有」である。クライアントに対する理解を重ね,ある程度カウンセラーの中で援助の方向性が定まってきた段階で,クライアントとその方向性を共有していく。第三段階は,クライアントの現実生活に変化が起きてくる「転回期」であり,第四段階は,クライアントの生き生きとした感情表出や,より一層の適切な現実検討が可能となる「クライアントの安定,カウンセラーの安心期」,第五段階は「終結に向けて」の展開期である。
クライアントにとっての「幸せ」について クライアントの「幸せ」のためには,まず自己理解・自己受容がある程度可能になることが目指される。それらを通じて,安心感や希望,および正当な感情の表出が促進され,結果として自己コントロールが容易になる。同時に,現実生活における周囲の他者を受け入れる余裕ができ,寄り添う他者の存在や他者との関係を通して,さらに安心感や希望を得ていくことで,より一層,社会適応が実現されていく。カウンセリングにおいてこのように自己受容,他者受容を踏まえた心理的自立のプロセスが促進されることが,クライエントの「幸せ」につながっていくことが示された。
総合考察
 本研究の総括として,カウンセラーが目指しているクライアントにとっての「幸せ」とは,“自己の受容と他者との関係の構築によって安心感を得ながら,社会で心理的に自立していけること”と考えられた。また,そのために大きな意味を持つ「寄り添う他者」といえるような存在は,カウンセリング場面においてはカウンセラーがその一端を担うことにもなる。そのためにも,カウンセラーの共感的態度といった基本的な在り方は重要な要因である。ただし,個々のクライアントにとって何が「幸せ」なのかといった具体的な方向性を見極めることは簡単ではなく,カウンセラーは,自身の見立てを洗練させていくことに加え,それをクライアントと十分に共有しようとすることが求められる。その協働的な相互のやり取りを通じて,カウンセラーはクライアントの望む「幸せ」のあり方に近づき,クライアントのニーズに合った援助の方向性や手法を選択しようとする。それは,一人の人間としてのカウンセラーの個性や考え方をも生かしながら,クライアントの生き方を最大限尊重するといったカウンセラーとしての基本的態度であり,それこそがクライアントの「幸せ」につながるものである。
引用文献
Berg,A.L.,Sandahl,C,&Clinton,D.(2008).The relationship of treatment preferences and experience to outcome in generalized anxiety disorder(GAD).Psychology and Psychotherapy:Theory,Research and Practice,81,247-259.
笠井 仁(2016).私たちの学び方・働き方・生き方-アンケートに見る日本心理臨床学会会員の現状- 日本心理臨床学会第35回秋季大会 職能委員会企画シンポジウム
Thoma,N.C.&Cecero,J.J.(2009). Is integrative use of techniques in psychotherapy the exception or the rule? Results of a national survey of doctoral-level practitioners. Psychotherapy, 46(4), 405-417.

キーワード
カウンセラー/介入/幸せ


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