発表

1D-032

2種の対人関係に焦点化したロールレタリングの継続的施行が怒りの変容に及ぼす影響

[責任発表者] 金築 智美:1
[連名発表者・登壇者] 金築 優:2
1:東京電機大学, 2:法政大学

問題と目的
 怒りは,日常的に経験される感情であるが,特性的な怒りが高い者は,対人摩擦や葛藤を抱えやすい。そのため,過度に高い特性怒りに対する心理学的介入が必要である。従来の怒りの変容を目的とした認知行動療法(金築他,2008)や筆記法(遠藤,2009)は共に,怒りの変容に対して一定の効果があるが,怒り経験に伴った対人関係上の問題までは考慮されていない。怒りの誘発因の約9割は人であり,怒りそのものが対人関係上の摩擦や葛藤を抱えやすい性質を有している(増田他,2005)点を踏まえるならば,怒りへの介入要素に対人関係上の視点を取り入れる必要性がある。その点,対人関係の文脈を重視するロールレタリング(以下RL)が怒りの変容に適している可能性が高い。RLとは,空椅子の技法(Perls, 1969)を援用する形で発案された自己と想定する他者との間で架空の手紙のやり取りを行う往復書簡(春口,1987)である。RLの効果を規定する一要因に,手紙を書く自己と想定する他者との関係性がある(金子,2011)。金築・金築(2018)は,特性怒りの高い大学生を対象に,対人場面において実際に怒りの対象となっている他者に焦点化したRL(怒り対象RL)と,受容的な内在他者に焦点化したRL(受容他者RL)といった2種の対人関係に焦点化した2つのRLを1回施行した結果,両RL群は共に,怒りの自己陳述に対して変容効果をもたらし,その効果の大きさは,怒り対象RLで顕著だったことを示した。1回のRLは,怒りの認知的側面に対して確かな効果を示したが,怒りの感情的側面にまで変容効果を得るためには,継続的にRLを行い,その変化を追跡する必要がある。また,どちらのタイプのRLが,より長期的な特性怒りの変容に有効であるかも併せて検証する必要がある。 そこで本研究では,2種の異なるタイプの想定する他者,すなわち,怒り対象RLと受容他者RLが特性怒りにもたらす効果の違いを,比較・検討する。
方 法
参加者: 首都圏大学生336名(男性283名,女性53名,19.30歳,SD=0.86)を対象に,特性怒り尺度(鈴木他,2001)を実施し,特性怒りが平均値(M=21)以上の者に実験参加の依頼を行った。承諾を得た者46名を3つの群(怒り対象RL群15名,受容他者RL群17名,統制群14名)に振り分け,分析対象者とした。
指標: (1)特性怒り及び状態怒りの尺度(鈴木他,2001),(2)怒りの自己陳述尺度(ASSQ; 増田他,2005),(3)被受容感の程度,(4)想定した他者の重要度を尋ねた。
実験手続き: 実験の説明と同意を行った後,プリテスト(以下プリ)を行った。RL群には,心理教育と2週間でRL(往信と返信が各10分)を計4回行った。怒り対象RL群には「怒り喚起場面で怒りを感じた相手」を,受容他者RL群には「自身の気持ちを優しく理解してくれて,温かく支えてくれた他者一人」を選定させた。各介入後には上記指標の(3)と(4)の査定を行った。ポストテスト(以下ポスト)はプリと同様だった。3週間後のフォローアップ(以下フォロー)では,特性怒りのみ査定した。統制群には,RL群と同様の時期に同様の指標の査定をした。
結果と考察
 各指標について介入条件(3)×段階(2or3)の2要因の分散分析を行った。多重比較にはTukeyのHSD検定を用いた(5%水準)。特性怒りの交互作用が有意だったため(F (4, 86)=5.13, p<.01),下位検定に移行した結果,怒り対象RL群は,プリとフォロー間及びポストとフォロー間で有意に低減していた。また,フォロー時では,怒り対象RL群が統制群より有意に低減していた。次に,状態怒りとASSQの交互作用が有意だったため(F(2,43)=3.46, p<.01;F(2,43)=3.69, p<.05),下位検定に移行した結果,両RL群はポストにかけて状態怒りとASSQが低減していた。被受容感は,介入の主効果が有意だった(F(1,28)=12.27, p<.01)。受容他者RL群は怒り対象RL群より,RLを行うことで,想定した他者から受容されている感じが一貫して高く,想定した他者については,受容他者RL群の方が怒り対象RL群よりも,いずれのセッションにおいて,重要な他者だと認識していた(F (1,30)=10.47; 6.00; 21.72; 7.63, 全てp<.01)。双方のRLは,状態怒りや怒りの自己陳述の低減には効果的である一方で,特性怒りの変容には,実際に怒りを感じた相手に対してRLを行う方がより適しているといえよう。ただし,受容他者RLの方が,被受容感が高まりやすく,重要な他者を選定していることから,直接的に怒り対象者に対峙することに抵抗が強い場合には,受容他者RLを行うことにも十分意義があるだろう。本研究の知見から,怒りの変容を考える際に,対人関係の要素に焦点化した自己内対話を促すことの重要性が改めて示唆された。
主な引用文献
金築 智美・金築 優 (2018). 大学生の怒り変容に及ぼすロールレタリングの即時的効果-想定する他者の違いに着目して 役割交換書簡法・ロールレタリング研究,1,41-56.
<謝辞> 本研究は文部科学省科学研究費(課題番号26780397)の補助を受けて行われた。

キーワード
怒り/ロールレタリング/想定する他者


詳細検索