発表

1D-030

青年期女子の音楽聴取における楽曲の感情価・認知度と感情体験の関連
-懐かしさの観点からの検討-

[責任発表者] 宇佐美 桃子:1
[連名発表者・登壇者] 鈴木 翔子:1, 渡辺 恭子:1
1:金城学院大学

 【問題と目的】懐かしさとは,それぞれの人の中に息づいている心的リアリティであり(今野・上杉2003),複合的な感情であることが示されている(嶌田1997)。先行研究の検討から,懐かしさに関する尺度を作成した研究がいくつかあるが,研究者によって懐かしさの定義は異なると考えられる。また,懐かしい音楽を聴取することにはリラックス効果があるなど(斎藤・小林2013)懐かしい音楽が心理的効果をもたらすと推察される。しかし,懐かしさの要素までには考察を深めていないことが課題である。そこで本研究では,研究1で懐かしさに関する尺度を構成し,研究2において,懐かしさに関連するパーソナリティについて検討すること,そして懐かしさに関する尺度を用いて実際に音楽を聴取した際の懐かしさを検討することとした。
 <研究1.>【方法】女子大学生133名を対象に質問紙調査を実施した。質問紙は①懐かしい記憶についての自由記述②先行研究の懐かしさに関する尺度(石井2014)(池田・針塚2015)と予備調査の結果に基づいた32の感情語とした。【結果と考察】因子分析より,懐かしさが『親しみ』『ほろ苦さ』『せつなさ』の3因子で構成されていることが示され,懐かしさは複合的な感情であると考えられた。『親しみ』は先行研究においても重要な因子となっているが,本研究の結果からも懐かしさの要素として欠かせない感情だと考察される。『ほろ苦さ』因子は,先行研究では抽出されていない要素であり,具体的な自伝的記憶からもたらされる懐かしさであると推察される。『せつなさ』因子は,曖昧なぼんやりとした過去へのイメージからもたらされる懐かしさであると考察される。
 <研究2.>[予備調査]本調査で使用する曲の選曲を行なうことを目的とした。懐かしさをもたらす要因として既知感があるとされているため(嶌田,1997),本研究では認知度に着目して選曲した。その結果,認知度の高い曲は≪アイアイ≫≪こぶたぬきつねこ≫≪おもちゃのチャチャチャ≫を,認知度の低い曲は≪どれみのキャンディー≫≪てをつなごう≫≪ツッピンとびうお≫を採用した。[本調査]女子大学生215名を対象に音楽聴取を行い,その前後に質問紙調査を行った。質問紙は①日本語版HEXACO-60(Wakabayashi2014)②音楽の感情価測定尺度(谷口1995)③一時的気分尺度(徳田2011)④芸術療法体験尺度(加藤ら2014)⑤研究1で作成した懐かしさ尺度とした。条件は2水準で,曲は予備調査に基づき「認知度あり」条件(以下,NA条件),「認知度なし」条件(以下,NN条件)とした。
 【結果と考察】相関分析およびパス解析の結果から,NN条件・NA条件両群とも『正直さ』が『親しみ』を介して『子ども時代への回帰』に影響を及ぼすと示された。また,『親しみ』は『自己理解』を高めることが示された。音楽によって喚起される懐かしさで自伝的記憶の想起が促されるが(滝川・沖,2011),ポジティブな懐かしさは良い記憶に昇華されたものだと考えられ,自己へも向き合いやすく気づきも深まると考えられる。
 NN条件では,『誠実性』が『せつなさ』を介して『自己理解』を高めることが示された。さらに,『自己理解』は『抑うつ』を低下させ,『子ども時代への回帰』は『疲労』を低下させることが示された。認知度が低い曲は,自分の具体的な過去の経験とは結びつきにくく,その人が抱くイメージの中での気づきや子ども時代を体験することで,気持ちを整理し落ち着けることができたと考えられる。
 NA条件では,『ほろ苦さ』が『自己理解』『疲労』を高めることが示された。認知度のある曲では具体的な過去の経験の想起によりほろ苦い懐かしさが促されるために,エネルギーを必要とし,疲労感を感じたと考えられる。
 本研究の課題として,調査対象者が女子大学生のみであったことが挙げられる。また,青年期は,アイデンティティを確立し自己を形成する時期とされている一方で,老年期は,ネガティブな出来事も懐かしく受け止めるとされている。今後,生涯発達の視点を考慮し,様々な年代で検討することが求められる。

キーワード
懐かしさ/音楽聴取/青年期


詳細検索