発表

1D-025

出産後早期の母親の軽い不調感に影響を及ぼす要因についての一考察

[責任発表者] 宮崎 紀子:1
[連名発表者・登壇者] 宮﨑 歓#:2
1:松角会マムレディースクリニック, 2:立命館大学

Ⅰ.目的
 出産後早期は,母親にとって新生児との相互交流は容易ではなく軽い不調感を抱きやすい時期と考えられる。この軽い不調感はマタニティブルーズと一括りにされ看過されやすく,専門職による産後支援も届きにくい時期である。
そこで,不調感の増悪防止と母子相互作用を担保するため,出産後約1ヵ月の時期の母親から得られた質問紙の回答と感想文の記述内容をもとに分析を行うことを目的とする。
Ⅱ.方法
 X年4月からX+2年11月,開業産婦人科医院で出産した正常分娩の母親279名を対象に,倫理的配慮を行ったうえ出産後4〜5日目(以下,1期)と1ヵ月目(以下,2期)にEPDS日本語版(Okano et al:1996,1998)を使用した。吉田ら(2005)の解説を参考に各質問項目に次のようにタイトルを付けた(★印は抑うつ気分についての項目)。質問1★[気分の落ち込み],質問2★[物事への興味減退],質問3[不必要に自分を責める],質問4[理由もない不安],質問5[理由もない恐怖],質問6[することがたくさんあって大変],質問7[睡眠の障害],質問8★[理由もない悲しさ],質問9★[不幸せな気分],質問10[自殺念慮・自殺企図]。日本人の場合の区分点は9点とされるが9点未満の母親の中にも多彩な精神症状を有する母親がいる(西園,2015)ことから9点未満に焦点化し,低群(0点〜4点),中群(5点〜8点),高群(9点以上)とし,中群を軽い不調感を有する群として位置づけた。中群の1期から2期の変化過程を捉えるため次の4群を設定した。
 (1)群:1期低群から2期中群に上昇
 (軽い不調感が出産後1ヵ月間に生じた母親)
 (2)群:1期中群から2期低群に下降
 (軽い不調感が出産後1ヵ月間に解消した母親)
 (3)群:1期中群から2期中群のまま
 (軽い不調感が出産後1ヵ月間に継続した母親)
 (4)群:1期中群から2期高群に上昇
 (軽い不調感が出産後1ヵ月間に増大した母親)
 さらに,産後支援相談退院後2週間目から1ヵ月半の期間を受けた55名の母親へ感想文の記入を依頼しKJ法に則り分類しタイトルを付け分析した以下,【 】内。
Ⅲ.結果
 EPDSの対象者は227名(初産98名,経産129名)(有効回答率81%),年齢層10代から40代,KJ法の分析対象者は51名(55名中4名は研究協力拒否者)であった。
 1期,2期の低群中群高群の割合は,1期は,低群162名(71%),中群47名(21%),高群18名(82%),2期は低群159名(70%),中群48名(21%),高群20名(9%)であった。
 (1)群から(4)群のEPDS1期から2期の変化は,(1)群26/162名(16%)(初産13名,経産13名),(2)群25/47名(53%)(初産15名,経産10名),(3)群12/47名(26%)(初産6名,経産6名),(4)群10/47名(21%)(初産8名,経産2名)であり,約半数(53%)の母親が出産後1ヵ月間に軽い不調感を解消させていたが,残り(47%)の母親は,継続あるいは増大させていることが確認された。また,軽い不調感を新たに生じさせていた母親の存在も確認された(16%)。
 (1)群から(4)群のEPDS各質問項目の平均得点について,最も高かった3つの項目[理由もない不安],[不必要に自分を責める],[することがたくさんあって大変]を,4((1)群,(2)群,(3)群,(4)群×2(初産,経産)×3(1期,2期)の3要因分散分析を行ったところ,[理由もない不安]を示すEPDS平均得点の主効果が有意であった(F=6.20,df=3/65,p<.01)。これは(3)群(4)群で[理由もない不安]が軽い不調感の主な影響要因になっていた。また,[不必要に自分を責める]を示すEPDS平均得点と出産歴(初産,経産)の交互作用が有意であった(F=7.45,df=3/65,p<.01)。これは(1)群(2)群(3)群にとって,[不必要に自分を責める]は初産よりも経産の母親がより強く感じられているが,(4)群にとっては,経産よりも初産の母親がより強く感じられていた。[することがたくさんあって大変]は有意ではなかった。
 KJ法の分析結果について,167個(51名)の記述が認められた。出産から1ヵ月の思いでは,回答者の約半数が【母乳・授乳に関する不安や心配】(27/51名,53%),【漠然とした不安や心配】(25/51名,49%)を挙げ,次いで【新生児の体重や発育に関する不安や心配】(15/51名,29%),【日常生活に関する不安や心配】(3/51名,6%)を挙げていた。
Ⅳ.考察
 出産後早期の母親は,不安や自責など軽い不調感を抱いていることが示唆された。多くの母親は出産直後から児への愛情を抱けず悩むことがある(岡野ら,2002)ことからも,直ぐに身近な存在として受け入れられない心情が母親を不安にさせ自責へと繋がる場合も考えられ,母親の自責感の増大を事前に防ぐ支援は母子相互作用を守るうえで必要である。
 次にKJ法の分析結果から,特に母乳に関する不安が軽い不調感に反映していた。筆者の経験からも,思うように乳汁が分泌されないことから自信を無くし落ち込む母親も数多く見られる。そのこだわりの程度が軽い不調感を生じさせる影響要因の一つであると考えられた。従って,母乳育児にとらわれている母親,ミルクを足すことで挫折感を抱く母親,あるいは自分の気持ちを訴える代わりに母乳に関する不安を話題にする(吉田ら,2005)母親など,個別の思いに添った時機を得た産後支援が今後さらに求められる。
〈主な引用・参考文献〉
John Cox and Jeni Holden.(2006).Perinatal Mental Health:A Guide to the Edinburgh Postnatal Depression Scale(EPDS).岡野禎治・宗田聡(訳)(2006).南山堂

キーワード
出産後早期/軽い不調感/母子相互作用


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