発表

1D-024

失感情症傾向者に対して臨床動作法が及ぼす影響
-“お任せ”による情動認識の促進についての実験的検討-

[責任発表者] 横山 舜:1
1:青山学院大学

問題
 失感情症者には,象徴と実体験の結び付きが弱い者にとっても体験過程を意識化する道を開く(伊藤,1999)とされる臨床動作法が,治療において有用と考えられる。臨床動作法では“動かそう”とする気持ちを捨て,真正面からその場の状況を受け取って,“からだに任せきる”ことで,初めて“ここまでが精一杯”という緊張が弛められる(成瀬,2016)。すると,それまで頑張り方が弛み,意識されていなかった情動に纏わる緊張感などに対応し,意識できるようになる(成瀬, 2014)。よって本研究では,お任せが求められる課題である,背反らせ課題によって失感情症傾向者の情動認識が促されるのか否かを検討した。
実験1
目的 失感情症傾向群と非失感情症傾向群の音楽による気分誘導の違いについて検討する。
方法
 実験参加者 10名。平均年齢21.9歳(SD=1.20)。事前にTAS-20(小牧ら,2003)とSTSS(有村ら,2012)による失感情症傾向の測定を行い,失感情症傾向群5名と非失感情症傾向群5名に分けた。失感情症傾向群は,TAS-20において52点以上であり,なおかつSTSSにおいて60点以上の者とした。また非失感情症傾向群は,それ以外の者とした。
 気分の測定 POMS2を使用した。所定の時間枠における気分状態を評価する質問紙である。65項目を0-4点で評価し,7つの気分状態を測定できる。
 音楽刺激 次の2曲をカウンターバランスを取りながら提示した。“シバの女王の入城”(作曲:ヘンデル,演奏:アカデミー室内管弦楽団 & マリナー(1991)), “トトロ“(“五月の村”・“ねこバス”)。(作曲:久石譲,アルバム:となりのトトロサウンドトラック(1988)。
 手続き 1.気分の測定(Pre),2.音楽聴取1,3. 気分の測定(Post1),4. 音楽聴取2,5. 気分の測定(Post2)
結果と考察 群毎にベースラインとシバの女王の入城聴取後の気分における,Wilcoxsonの符号付き順位検定を行った。失感情症傾向群は,いずれの気分においても有意に気分が変わらなかった(n.s.)。非失感情症傾向群は,“混乱-当惑”,“抑うつ-落ち込み”,“疲労-無気力”,“緊張-不安”では有意な減少(p<.05),“活気-活力”では有意な向上が認められ(p<.05),“怒り-敵意”には減少傾向が認められた(p<.10)。“友好”においては,有意な変化が認められなかった(p<.05)。失感情症傾向群の気分が変動しなかったことは情動認識のしにくさによるものと考えられ,非失感情症傾向群の“友好”以外の気分が有意に変動したことは,情動認識のしやすさによるものと考えられる。
実験2
目的 お任せ課題後の失感情症傾向群の情動認識について検討する。
実験参加者 失感情症傾向群(12名) 平均年齢20.50歳(SD=1.00)。TAS-20で61点以上であり,なおかつSTSSで60点以上の者であった。
気分の測定 POMS2短縮版(35項目)
音楽刺激 シバの女王の入城”(既出)
手続き 1. 音楽聴取(Pre),2. 気分の測定(Pre),3. お任せセッション(20分間,実験参加者の広背筋に背反らせ課題を行った),4. 気分の測定(Post1),5. 音楽聴取(Post),6. 気分の測定(Post2)
結果と考察 音楽聴取(Post1)と音楽聴取(Post2)の気分において,Wilcoxsonの符号付き順位検定を行った。実験2の失感情症傾向群では,“混乱-当惑”(p.<01),“疲労-無気力”(p.<05),“緊張-不安”(p.<001)においては,有意な減少が認められた。また,“怒り-敵意”,“抑うつ-落ち込み”,“活気-活力”,“友好”に関しては,有意差が認められなかった(n.s.)。下記表に結果を示す。実験2で一部の気分評定が変化したことは,失感情症傾向群がお任せによって一部の情動を認識できるようになったためと考えられる。
引用文献
有村達之・岡孝和・松下智子(2012). 失体感症尺度(体感への気づきチェックリスト)の開発 一大学生を対象とした基礎研究一 心身医学, 52(8), 745-754.
伊藤研一(1999). うつ病成人への動作法の適用. 臨床動作学研究, 5, 22-26.
小牧元・前田基成・有村達之・中田光紀・篠田晴男・緒方一子・志村翠・川村則行・久保千春(2003). 日本語版 The 20-item Toronto Alexithymia Scale(TAS-20)の信頼性,因子的妥当性の検討. 心身医学,43,840-846.
Taylor, G. L., Bagby, R. M., & Parker,J. D. A. (1997). Disorders of affect regulation. Alexithymia in medicaland Psychiatric illness. Cambridge. Cambridge University Press,
成瀬悟策(2014). 動作療法の展開. 誠信出版. 178-180.
成瀬悟策(2016). 臨床動作法. 誠信書房. 22-29.

キーワード
臨床動作法/アレキシサイミア/情動への評価


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