発表

1C-031

イギリスにおける過剰適応の生起メカニズムの検討
評価懸念とストレス経験に着目した仮説モデルの検討

[責任発表者] 阿部 夏希:1,3
[連名発表者・登壇者] 小池 真由#:2, ローハン スティーブ#:2, 中島 健一郎:1
1:広島大学, 2:エジンバラ大学, 3:日本学術振興会特別研究員DC2

目 的
 過剰適応は,抑うつなどの不適応と関連しているだけではなく (石津・安保, 2008; 風間, 2015),自殺や不登校などの社会問題につながると言われている (益子, 2009)。過剰適応傾向が高い者は,内的な欲求を無理に抑圧してでも外的な期待や要求に応えようとするため,心理的な適応は低下することが示されている。これは,過剰適応者は良好な対人関係を築き社会的には適応しているように見えても,心理的に安定しているとは言い難い人々であると換言できる。
 過剰適応に影響を及ぼす要因としてアレキシサイミアがあげられる (馬場・佐藤・鈴木,2002)。アレキシサイミアとは,自他の感情状態を認識し類推することが不得手な性格特徴を指す (Sifneos, 1973)。アレキシサイミア傾向が高い個人は,感情を経験した際にその感情が何であるのか具体的に認識することができず,言語化して他者に伝えることができない。そのため,他者と親密な関係を築くのが苦手で (Yelsema et al., 2000),孤独感が高い (Frye-cox & Hesse, 2013)。
 アレキシサイミア傾向が過剰適応を引き起こすプロセスについては,日本人の大学生を対象として検討が行われており,アレキシサイミア傾向が高ければ高いほど,ストレス経験やFNEが高く,それぞれが高いほど過剰適応が高いことが報告されている (阿部・中島, 2018)。アレキシサイミアにまつわる問題は西欧文化圏でも指摘されており,様々な精神的健康問題の危険因子であると報告されている (Popkirov, 2018)。その一方,過剰適応は西欧文化圏では一般的な概念ではないとの指摘があり (石津・安保・大野,2007),海外での検討事例は著者が知る範囲ではあるものの,見つけることができない。
 この点を踏まえ,本研究では西欧文化圏においても,アレキシサイミア傾向が過剰適応を引き起こすプロセスが見られるかについて,構造方程式モデリングを用いた検討を行う。
日本と同様のプロセスが確認されれば,アレキシサイミア傾向の高い個人が過剰適応に陥るのを防ぐ介入方法について,文化圏を越えて提案できる可能性が高まる。

方 法
 参加者 20代~60代までの調査モニター302名 (男性152名,女性150名,平均35.45歳,SD = 10.33)
 尺度 (1) アレキシサイミア評定: TAS-20 (Bagby, Parker, & Taylor, 1994; 20項目5件法)。(2)他者からの否定的な評価に対する不安尺度 (Watson & Friend, 1969; 12項目5件法)。(3)ストレスフル経験頻度尺度 (中島ら,2010; 16項目5件法)。(4)過剰適応: 青年期前期過剰適応尺度 (石津,2006; 33項目5件法)。
本調査は第一著者の所属する大学内に設置されている倫理審査委員会による審査と,Edinburgh Universityの倫理審査委員会による審査を受けており,その内容について承認を得ている。

結 果
 はじめに,各尺度に関して平均値と標準偏差を算出した上で各変数間の相関係数を算出した。各尺度の得点を算出する際には,個人ごとの項目群の平均値を用いた。TAS-20については,小牧ら (2003) やMoriguchi (2007) に倣い,個人ごとの項目群の合計値を用いた (Table 1)。次に,構造方程式モデリングによるパス解析を実施した (Figure 1)。その結果,適合度の基準を満たすことが確認された(χ2 (4) =10.60,CFI=.996,RMSEA=.074, SRMR=.019)。

考 察
 アレキシサイミアが過剰適応に至るプロセスについて,本研究では,イギリスも日本とほぼ同様のプロセスをたどることが示された。すなわち,ストレス経験とFNEが媒介変数となることが示された。これらは,アレキシサイミアの内的な適応を阻害している要因であるため,アレキシサイミア傾向の高い個人が過剰適応の状態になることを避けるためには,ストレス経験やFNEを低減するような介入や心理教育が有用になる可能性があげられる。特に,FNEから過剰適応の下位尺度への標準化パス係数の大きさを考慮すれば,ストレス経験よりもFNEの方がプロセスの中で相対的に重要な役割を持っていることが示唆される。

引用文献
Sifneos, P. E. (1973). The prevalence of alexithymic characteristics in psychosomatic patients.Psychotherapy and Psychosomatics, 22, 255-262.

キーワード
アレキシサイミア/過剰適応/FNE


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