発表

1C-025

適応的な自己注目を促進する心理教育プログラム
―大規模授業における検討―

[責任発表者] 田渕 梨絵:1
[連名発表者・登壇者] 及川 恵:1
1:東京学芸大学

 目 的
 自己注目とは,自分について考えることである。青年期には自己注目が増加し,特にネガティブな自己注目に陥りやすいことが指摘されている(e.g., 坂本,1997)。一方で,自己注目は自己制御の一過程であることなどの適応的な側面も有しており(Trapnell & Campbell, 1999),ネガティブな自己注目の低減と併せて適応的な自己注目を促進するための支援が求められている。
 適応的な自己注目の方法としては,思考内容の具体性を高めることや(e.g., Watkins et al., 2008),自身の肯定的側面と否定的側面の両方に注目すること(以下,両面注目)の有効性が示唆されている(Tabuchi et al., 2017)。また,近年ではこれらの要素とネガティブな自己注目を低減するための要素を取り入れた,適応的な自己注目のための心理教育プログラムも検討されている(田渕・及川,2018)。しかしながら,田渕・及川(2018)のプログラムは少人数向けの授業での実践である。自己注目は青年期において日常的に経験されるものであるため,幅広い対象に予防的にアプローチしていくことが望まれる。そこで本研究では,大規模授業で活用可能なプログラムを作成するため,従来のプログラム(田渕・及川,2018)に大人数での授業に合わせた工夫を加え,介入効果の検証を行う。

 方 法
対象
 本研究に参加した大学生全54名のうち,全2回の効果測定に参加し,回答データに不備がなかった51名(男性17名,女性34名,平均19.10±0.90歳)を分析対象とした。
手続き
 大学1年生を対象とした心理学系の選択科目の授業内で心理教育プログラムを実施し,プログラムの開始1週間前と終了1週間後に効果指標の測定を行った。
 心理教育プログラム 適応的な自己注目についてのプログラムを全7回(週1回・各回90分)実施した(Table 1)。本研究では,大人数かつ心理学初学者を対象とした授業での実践であったため,先行研究(田渕・及川,2018)を一部改変し,プログラムの回数を増やして1回あたりの知識提供の量を少なくすることや,ホームワークを求めず,授業内で演習を行う機会を増やすことなどの工夫を行った。プログラムは講義とディスカッションから構成され,各回の参加者は61〜75名であった。
 効果指標測定 (1)反すう:ネガティブな反すう尺度(伊藤・上里,2001)から“ネガティブな反すう傾向”の7項目(6件法),(2)自己理解:自己理解尺度短縮版(青木・伊澤, 2016)の12項目(7件法),(3)感情理解:日本語版Wong and Law Emotional Intelligence Scale(豊田・山本,2011)から,“自己の情動評価”の4項目(7件法),(4)脱中心化:日本語版Experiences Questionnaire(栗原・長谷川・根建,2010)の“脱中心化”の10項目(5件法),(5)両面注目:否定的次元自己注目時の認知操作尺度(原田,2006)から,“両価的持続”の4項目(5件法)。

 結 果
 介入前後の各指標得点を算出し,対応のあるt検定による比較を行った。反すう得点は,介入前は25.53(SD=8.15),介入後は24.00(SD=7.79)であり,介入後に有意傾向での減少が示された(t(50)=1.69, p<.10)。自己理解得点は,介入前は59.61(SD=8.62),介入後は61.57(SD=9.88)であり,介入後に増加が認められた(t(50)=-2.10, p<.05)。感情理解得点は,介入前が18.22(SD=4.23),介入後が19.57(SD=4.31)となり,介入後に増加が示された(t(50)=-2.53, p<.05)。脱中心化得点は,介入前は29.78(SD=5.13),介入後は31.49(SD=5.19)であり,介入後に増加が認められた(t(50)=-3.21, p<.01)。両面注目得点は,介入前は11.41(SD=3.48),介入後は12.45(SD=3.76)であり,介入後に増加が認められた(t(50)=-2.28, p<.05)。

 考 察
 結果より,プログラムの参加者は介入後に反すうが減少し,自己理解が増加したことが示された。したがって,大人数授業での実践における,適応的な自己注目を促進するためのプログラムの有効性が示唆されたといえる。また,プログラムの各回の介入内容に相当する感情理解,脱中心化,両面注目の増加も認められたことから,これらのスキルの獲得が反すうの低減や自己理解の向上に繋がった可能性が示唆される。本研究では先行研究(田渕・及川,2018)と異なり,ホームワークを取り入れなかったものの,授業内で練習を行う時間を多く取ることにより,スキルの獲得に役立ったものと思われる。今後は,プログラムの効果を詳細に検討するため,介入を受けない統制群との比較や,介入効果の持続や変化についての追跡調査の実施が望まれる。

キーワード
自己注目/心理教育/青年期


詳細検索