発表

1C-023

児童精神科診療所におけるWISC-IVの役割

[責任発表者] 久保 りつ子:1
[連名発表者・登壇者] 牧原 寛之#:1
1:牧原クリニック

目 的
WISC-IVは,5歳から16歳までを対象とし,医療,教育,福祉などの現場で多用されるウェクスラー式の知能検査である。当該検査では,被検者の知的能力の様々な面を把握することができる。その一方で,補助検査まで実施しようとすると,下位検査の項目が多いことから被検者への負担が大きく,分析にも時間のかかる検査である。これを有効に使うためには,合成得点やプロセス得点,ディスクレパンシーなどの数値を算出するだけでなく,適切な解釈と丁寧なフィードバックが必要である。
今回,我々は児童精神科診療所でWISC-IVを実施した症例について調査し,WISC-IVをどのような目的で実施し,治療場面でいかに機能しているのか分析,検討する。
対 象 と 方 法
対象 : A精神科診療所を受診し,WISC-IVを実施した5歳~15歳(平均年齢11歳9ヵ月)の29例(男児23名,女児6名)である。
方法 : 対象の主訴,生育歴,家族歴,現病歴,検査に至った経緯,他に実施した心理検査,診断名,検査後の経過などについて,診療録をもとに調査,分析する。
結 果
1. 主訴
29例の主訴は「けんかが多い,孤立しやすいなどの対人関係の問題」10例,「発達障害(注意欠如多動性障害ADHD,自閉症スペクトラム障害ASD)ではないか」「多動,集中力がない,落ち着きがない,忘れ物が多い」いずれも9例,「発達をみて欲しい」「学業不振」いずれも6例,「抜毛,爪噛みなどの習癖」5例,「ことばの遅れ」「不登校」いずれも4例,「チック」「書字の問題」「虚言,盗癖,非行」いずれも3例,「記銘力の問題」「睡眠の問題」「体調不良」がそれぞれ2例であった。(一部重複あり)
2. 検査理由
医師がWISC-IVが必要との判断に至った理由について分析したところ,「診断の参考にするため」19例65.5%,「発達の経過をみるため」(過去に新版K式発達検査,WISC-IIIなどを受けていた)10例34.5%であった。
3. 併せて実施した心理検査
WISC-IVとともに施行した検査としては,バウムテスト26例89.7%,ADHD評価尺度15例51.7%,自閉スペクトラム症評定尺度2例6.9%であった。
4. 診断名
診断名は,ADHD23例,限局性学習障害19例,ASD13例,知的発達障害3例,選択性緘黙2例,チック障害2例,トゥレット障害1例であった。(重複あり)
5. 検査後の経過
検査後の対処としては,「検査後に投薬治療が始まった」11例37.9%(検査前から投薬1例),「療育手帳,精神障害者手帳を取得(検査以前に取得していた4例を含む)」8例27.6%,「フィードバックのみで経過をみることになった」6例20.7%,「環境調整のために心理カウンセリングにつないだ」4例13.8%,「学校や療育福祉施設に意見書を提出」2例6.9%,「詳しい検査結果を聞きに来なかった(いずれも家族に当院通院歴あり)」2例6.9%であった。(一部重複あり)
考 察
今回の対象の主訴を分析すると,「落ち着きがない,忘れ物が多い」「対人関係の問題」といったADHDやASDなどの発達障害に関連するものが一番多かった。次いでことばや学習の遅れ等,知的発達の問題を訴えていた症例が多く,これらは知的能力や認知の問題など発達の様相をみる目的で,医師からWISC-IVの依頼があった。一方で「不登校」「体調不良」「チック」「虚言,盗癖」など,直接知的発達の問題を訴えていない症例であっても,その背景に発達障害や知的発達遅滞が疑われた場合にはWISC-IVを実施していた。また過去に知能検査などを受けていた者については「経過をみるため」の施行であった。
検査後の診断名を分析すると,知能検査を実施したにも拘わらず「知的発達障害」は3例にとどまっていた。これはIQの低値が予測される場合は,他の知能検査を実施する方が適切と医師や検査者が判断したためと考えられる。このように検査を依頼する時点で,医師がWISC-IVを受ける対象を選択していることがわかる。
加えて,医師が当該検査から見ようとしていることは,被検者のIQや能力のばらつきだけではなく,時間のかかる煩雑な検査だからこそ明確になるインフォーマルな部分と考えられる。ウェクスラー式の知能検査は形式化された検査であり,当然検査者の教示は一定でなければならない。この中で他児との比較から見えてくる,検査者との疎通性,どのような姿勢で検査に取り組むかという受検態度も診断のための重要な情報となる。岡田ら(2015)は,WISC-IVでの検査行動について「意欲・協力的態度」「不注意・衝動性」など6つのカテゴリー,36のチェックリストを作成している。このような受検態度に加え,我々は「言語表現が端的か迂遠か」「手や目の動き」「鉛筆の持ち方や筆圧」「解答を導き出すまでの思考経路や戦略」「吃音や反響言語」「チック」など,評価点には表れない部分を検査中に観察し,所見に記載,報告している。
さらにWISC-IVは検査を実施すること自体が,対象児と検査者(治療者)の信頼関係を築くツールとなっている。
WISC-IV施行後,被検者の生育歴,現病歴などの保護者や教育機関からの情報や,他の心理検査や行動評価尺度等を総合して,医師は診断や対処,つまり投薬や環境調整,学校や福祉との連携につなげている。もちろんこれと並行して被検者や保護者への丁寧なフィードバックや情報共有が必須であり,WISC-IVは児童精神科診療所で重要な役割を担う検査となっている。

キーワード
WISC-IV/児童精神科/知能検査の役割


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