発表

1C-022

初学者セラピストの個性が臨床実践に与える影響
個性の要素とその影響過程

[責任発表者] 野村 佳申:1
1:東京大学

問題と目的
 臨床実践においてセラピスト(以下,Th)が自らの内面について理解することの重要性は従来より示唆されており,初学者Thの発達においても重要とされている。自らの内面について理解することすなわち自己理解は自身の特性を理解する「自己理解」と自身の内的過程を理解する「自己モニタリング」に細分化されるという指摘が存在する(北島,2010)。Thの内面に影響を与える要素の一部に,様々な個性が存在すると考えられる。臨床実践と個性の関連は様々に検討されてきたが,性格特性などの既存の個性概念をトップダウン式に対象としたものがほとんどであることや,臨床実践内でどのように影響するか具体的な検討が不足しているなどの問題が存在している(野村,2018)。個性の要素は幅広く,臨床実践への影響するという観点からボトムアップ的にどういった個性の要素が臨床実践に影響しやすいか,またいかに影響するかの検討が必要であろう。
 そこで本研究では初学者Thを対象に,既存の概念に捉われずThの個性が臨床実践に影響する過程を検討する。これにより初学者Thの「自己理解」の対象となる個性の構造と「自己モニタリング」の対象となる個性の影響する過程を明らかにすることを目的とする。
方法
 2016年9月~10月にTh122名を対象に質問紙を実施し,回答者の内,インタビュー参加に同意をした臨床経験5年以内のTh14名(男性5名,女性9名,平均臨床経験19.1か月)を調査の対象とした。参加者の理論的志向性は精神分析2名,認知行動療法5名,来談者中心療法8名,コミュニティ心理学1名,家族療法1名,ブリーフセラピー1名,マインドフルネス2名であった(複数回答可)。参加者には50~80分ほどの半構造化面接を行い,M-GTA(木下,2003)によるデータ分析を行った。
結果と考察
 分析の結果生成されたサブカテゴリを≪≫,カテゴリを<>と表記しストーリーラインを示す。
個性の構造:<個性>は,影響する臨床実践内の側面により<理解・共感の仕方><進行のさせ方><関わり方>の三軸に分かれた。それぞれの側面毎に対極的な要素が示され,<理解・共感の仕方>においては≪情緒的≫≪理性的≫の対が,<関わり方>に関しては≪能動的≫≪受動的≫の対が,<進行のさせ方>に関しては≪慎重≫≪積極≫の対となる個性が存在する。これら三対の個性は排他的なものではなく,天秤状のものである。個人内の各要素の強さにより三次元軸上に個人をプロットすることで,個人の<個性>の全体像を表現することができる。
個性が臨床実践に影響する過程(図1):まず,上述した<個性>が存在する。<個性>は個人が長期的に形成してきた内的な要素であり,面接という短期的なプロセスにおいては変化することが難しい。個々人が持つ<個性>の要素に応じ,臨床実践において取りやすい<面接でのスタンス>が存在する。これは,<個性>と密接に関わっているが,態度やスタンスであり意識する事で変更することができる。Clとの接触を受け,<面接でのスタンス>に沿って<面接での思考・行動>が発生する。それにより,Clに何かしらの影響を持たらすことで<Clへの結果>が発生するが, Th自身の認識次第で<Clへの良い結果>あるいは<Clへの悪い結果>となる。<Clへの結果>の望ましさや,個人的に抱いている<臨床への指針>に沿っているかが基準となり,自身がとった<面接での思考・行動>に対する価値判断をTh自身が行う。それにより,<面接での思考・行動>は自己評価や行動に≪肯定的還元≫をもたらす≪自身が良いと感じる思考・行動≫か≪否定的還元≫をもたらす≪自身が悪いと感じる思考・行動≫のいずれかとして評価される。Thは≪自身が悪いと感じる思考・行動≫に対しその改善を図るため自身の<面接での思考・行動>をコントロールしようとする働きである<統制への努力>を行う。<面接での思考・行動>は<個性>の影響を受けたものだが,<個性>を変えることは難しい。そこで,<面接でのスタンス>を変えることで<面接での思考・行動>を改善しようとする動きが見られた。また,<統制への努力>には,個性の影響への気付きと,その統制の柔軟性から,≪把握できない≫≪振り回される≫≪一面的制御≫≪柔軟な選択≫の4つのパターンが見られた。
総合考察
 本研究の結果から,個性と臨床実践の関係について次の4点が考察される。1.本研究で明らかになった範囲では,ある個性の要素は,正反対の要素も存在する相対的なものであること,2. 個性が直接臨床実践に影響するのではなく,個性の影響を受けた面接へのスタンスが影響すること,3. Th自身が感じる個性の影響の良し悪しは複数の要因により変わること,4. 個性そのものは変えにくいが,面接へのスタンスを統制への努力により変えることでその影響を制御することが出来ること。加えて,統制への努力は自己理解により柔軟に行うことができるようになる可能性が示唆された。

キーワード
個性/初学者セラピスト/臨床実践


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