発表

1B-035

マス計算課題を用い遂行機能の検討をした一症例

[責任発表者] 戸名 久美子:1,2
1:立命館大学, 2:JCHO星が丘医療センター リハビリテーション部

目 的
 同じ50マスの計算でも,マス計算だけを行った場合と遂行機能課題の中の1つの作業として他の作業との流れの中で実施した場合とでは反応時間に差が出た症例を経験した。この反応時間の差はどのような要因から起こるのかということを考察し,遂行課題における一連の作業の中の1つとして,マス計算課題を設定することが遂行機能を評価する指標の一助になるのではないかという一例を報告する。
症 例 60歳代後半,男性。
 現病歴:左被殻出血(発症当日(1病日)に入院)。
 神経心理学的所見:注意障害,遂行機能障害,失語,失行。
 神経心理学検査:( )内発症日からの病日。
MMSE:19/30(12病日),28/30(61病日),FAB:9/18(26病日),10/18(61病日)。
PCPM:31/36(26病日), 32/36(70病日), TMT:A38s,B223s(25病日), A43s,B132s(70病日)。
BADS:32(68病日),SLTA:中等度(12病日),軽度(75病日)。
 日常生活:入院期間(1病日~34病日),当初,失語,失行が中等度にみられたが,失語は軽度,失行はほぼみられなくなり,病棟内ADLは自立していた。作業療法では二重課題が困難であり注意障害が指摘された。退院後,自宅での生活(35病日~70病日)において, 家事は妻が担い,特に大きな問題なく過ごせたが,入院前,独りで週末行なっていた電車利用の外出はなされなくなった。車の運転は禁止された。
倫 理 的 配 慮 
本発表は当院倫理委員会にて承認を得た。(承認番号HG-IRB19030)
方 法
 本研究は,臨床上,訓練課題として使用したマス計算の反応時間と神経心理学検査をあわせて検討する。使用した計算問題は全て1桁足す1桁の加算であり,症例には負担のないレベルであった。
マ ス 計 算 実 施 の 経 過 ;( )内は計算に要した時間
 マス計算の導入:27病日目は横9マス,縦3マス(58秒),28病日は横10マス,縦3マス(53秒)を実施した。
 50マス計算:29病日目からは全て横10マス,縦5マスの計算を実施した。29秒日目(117秒)ミスが1つ,30病日目(104秒)ミスは無かった。
 自主トレの獲得:31病日は自主トレにつなげるために,マス計算の枠に課題数字を自身で入れ,自身でストップウォッチでの計測を行なうよう練習した。すると反応時間が142秒に伸び,ミスは3つあった。32病日~70病日は,63病日を除き,①マス計算課題を作る,②ストップウォッチで時間を計る,③マス計算を行う,④ストップウォッチを見てマス計算にかかった時間を書き込む, といった一連の課題設定を行なった。つまり遂行機能課題の一部としてマス計算を位置づけた。63病日はマス計算のみ実施し84秒であった。
結 果 と 考 察
 29,30,63病日のマス計算単独実施の平均反応時間は101.67(±13.6)秒であった。遂行機能課題の一部として行なったマス計算課題反応時間は平均134.18(±22.4)秒であった。
 マス計算のみを実施した場合と遂行機能課題の1つとしてマス計算を実施した場合では反応時間に乖離があった(図1参照)。マス計算のみを実施した期間の27病日から30病日は,マス計算を行うスピードが日々上がっていた。本症例の報告期間は急性期・回復期といった,機能回復が見込める時期であり,この成績の上昇はマス計算への慣れだけではなく,低下していた機能の回復を示唆すると考える。しかしマス計算実施以外の作業が付加された31病日以降の反応時間は長くなり,またばらつきがみられるようになった。つまり他の作業を付加した遂行機能課題におけるマス計算の反応時間には機能回復の様子が反映されなかった。では,機能回復していなかったのかという疑問には否と答える。なぜならば,63病日目のマス計算単独実施時の反応時間は84秒であり,29,30病日の同条件のタイムより20秒以上短縮しているからである。31病日以降,マス計算を行うスピードが上がらなかった要因はどのようなことが考えるであろうか。これは一連の作業を計画性を持って行なうといった遂行機能に多くの認知機能の資源が費やされ,マス計算を実施する本来の力が発揮できなかったためであると推測する。
 失語や失行を呈する対象者の遂行機能そのものを評価することはなかなか難しい。そこで,単独実施で実行可能な課題を組み合わせて遂行機能課題を設定し評価することが有効となると考える。50マス計算課題における健常高齢者の平均反応時間は80.7(±26.7)秒とされている(戸名,2017)。健常高齢者平均反応時間も参考にできるマス計算を,実行可能な課題の組み合わせの1つとして,遂行課題に設定することは,遂行機能を評価する指標の一助になると考える。

キーワード
マス計算/遂行機能/神経心理学検査


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