発表

1B-034

手指失認の臨床的意義に関する文献レビュー

[責任発表者] 萱村 俊哉:1
1:武庫川女子大学

目的
 本稿ではゲルストマン症候群(GS)の4徴候(手指失認,左右弁別障害,失書,失計算)の中の手指失認の臨床的意義について文献的に検討する.手指失認と左右弁別障害は従来,soft neurological signs(SNS)のカテゴリに内包された徴候である.SNSは元来,現在の注意欠如・多動性障害(ADHD)や特異性学習障害(SLD)などの旧診断名である微細脳機能障害(MBD)の診断に用いられたが,現在では成人の統合失調症や認知症の徴候としても重視されるようになってきた.しかし,手指失認や左右弁別障害を含むSNSの意義は共通理解にまでは至っていない.そこで本稿では,手指失認の臨床的意義に関して,これまでに報告されている文献内容を要約し,発表では今後の課題の展望も行う.
方法
 筆者の研究(萱村,1990;萱村,2011)を含め手指失認に関する文献の概観を行った.文献の検索は,英文論文についはPubMedとWeb of Science ,邦文論文についてはCiNiiと医中誌Webを用いて行った.検索のキーワードは,英文論文検索では「finger /agnosia/gnosis」,邦文論文検索では「手指失認」「手指認知」であった.
結果と考察
 検索の結果,PubMed 164件, Web of Science 99件,CiNii 24件, 医中誌Web 46件がそれぞれヒットし,合計は333件であった.この中から手指失認に焦点を当て,その意義について論述している英文論文23本,邦文論文16本の計39本の論文を選出し,それらを分析の対象とした.対象となった論文を,それらの主題に即して分類した結果,主題は「発達」「脳局在」「発達障害との関連」「統合失調症との関連」「アルツハイマー病との関連」の5つのカテゴリに分類可能であった.以下,各カテゴリの内容を記述する.
1)発達:手指失認検査は種々あり,それぞれ異なった発達の様相を示す.たとえば,1本ないし2本の指の2点を触れられた被検者が,何本の指(1本or 2本)を触られているかを返答することが求められるTwo point finger testは,就学前の子どもでも多くが通過する.他方,任意の指を二本触られて,それらの指の間に指が何本あるかを答えさせるIn-between testや,触られた指の名前を答えさせるFinger naming testは,小学校高学年でも未だ完成域には到達しない(萱村,1990).さらに, Finger naming testは,小学生の場合,男子よりも女子のほうが,また左手よりも右手のほうが正確に解答できることも明らかにされている(萱村,2011).
2)脳局在:健常者を対象に両側間のIn-between test実施し,その間の脳機能(fMRI)を調べた研究(Rusconi, Tamè, Furlan, Haggard, Demarchi, Adriani, Ferrari, Braun & Schwarzbach,2014)では,左半球下部頭頂葉, 両側楔前部, 両側前運動野, および左半球下部前頭回に高信号域を認めている.中でも左半球下部頭頂葉と左楔前部はIn-between testにおいて中心的役割を担っていることが指摘されている. 急性期脳卒中患者では失読失書と失計算の症状が多くみられるが,これらの症状に手指失認と左右弁別障害が加わった場合,患者が右利きであれば,左半球頭頂側頭葉の病変を強く示唆する(Zukic, Mrkonjic, Sinanovic, Vidovic & Kojic,2012). さらに,Rusconi, Walsh & Butterworth(2005)は,経頭蓋磁気刺激法を用いて成人の左半球角回を刺激した結果,手指失認と同時に数等級処理の障害も認められたことを報告している.この所見はつまり,左角回が手指認知と数処理にかかわっていることを示唆している.
3)発達障害との関連:手指失認あるいは手指の認知能力は計算能力と関係することは多くの研究で指摘されており,手指(両手の10本の指)の表象が計算能力を下支えしていることが想定されている(e.g Wasner , Nuerk, Martignon, Roesch & Moeller,2016).また,一側の手指認知の障害があり,計算時に指を使用できない先天性半身麻痺のある子どもは,手指の相対的配置の理解と象徴的数課題において困難を示すことが明らかにされており,これは,子どもの頃に指を折って数を数えたことが数理解を促進しているという仮説(manumerical cognition hypothesis)を裏付ける所見と解釈されている(Thevenot, Castel, Danjon, Renaud, Ballaz, Baggioni & Fluss,2013).
4)統合失調症との関連:統合失調症の患者において手指失認がみられ, とくに右手の手指失認が統合失調症で特異的にみられるとの報告がある(Wang, Cai, Li, Yang & Zhu,2016).統合失調症におけるSNSとしては手指失認以外にも右手の鏡像運動(mirror movement)もみられており,これらは統合失調症の基底に中枢神経系の成熟遅滞が存在する証拠と考えられている(Wang, Cai, Li, Yang & Zhu,2016). さらに,Goldstein, Allen & Sanders(2010)は, アルコール中毒を合併した統合失調症の患者は,合併していない統合失調症患者やアルコール中毒単独の患者に比べ,手指認知や書画(数字)触覚の成績がより低いことを明らかにしており,統合失調症とアルコール中毒の合併により手指失認が顕著化すると考えられている.
5)アルツハイマー病との関連:アルツハイマー病の患者ではfinger naming testにおいてエラーが認められやすく,とくに示指の呼称ができなくなることが指摘されている(e.g Shenal, Jackson, Crucian & Heilman ).また,アルツハイマー病患者においては両手に手指失認がみられること,手指失認は言語機能,連合学習,処理速度など認知機能の重症度を予測することも示されている(Davis , Trotter , Hertza, Bell & Dean, 2012).

キーワード
手指失認/ゲルストマン症候群/臨床的意義


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