発表

1B-033

実存的不安尺度(ECQ)日本語版作成の試み(2)
大学生男女を対象とした検討

[責任発表者] 山﨑 洋子:1
[連名発表者・登壇者] 高村 愛:2, 大森 美香:2
1:お茶の水女子大学, 2:お茶の水女子大学

問題と目的
 実存的不安とは,人間の存在そのものを巡る不安である。実存的不安にはいくつかの側面があると考えられている。例えば,Tillich(1952)は,実存的不安を,死と運命,空虚と無意味,罪悪と非難の3つの領域で概念化している。また,Prochaska & Norcross(2007 津田他訳 2010)は,無意味であることや孤立感や孤独感,死の不可避性といった複数の要因が実存的不安をもたらすと説明している。実存的不安は思考・感情の理解やメンタルヘルスにとって重要であると指摘されており,心理学領域において,多くの研究がおこなわれている。例えば,存在脅威管理理論では,「死が不可避であることの不安」を存在論的脅威とし,その対処方法を解明しようとしている。また,実存的不安の空虚感と青年期の心性の「虚しさ」とを関連づけ,発達的見地から検討している研究もある。しかしながら,多くの先行研究では実存的不安の一側面のみを扱っており,包括的に実存的不安を検討してはいない。一方,van Bruggenら(2017)は,実存的不安の深い理解には包括的にとらえる必要があると考え,Existential Concerns Questionnaire(以下ECQ)を開発した。ECQは,死,無意味であること,罪悪感,社会的孤立,アイデンティティの5領域を網羅する22項目の尺度である。
 包括的に実存的不安を測定する尺度は,メンタルヘルスと関連する居場所感や生きがいなど様々な研究に有用であると考える。そこで,本研究は,実存的不安を包括的に測定するECQの日本語版を作成し,その信頼性と妥当性を検討することを目的とした。前回,大学生女子対象の予備調査の結果を報告した。今回は,ECQ日本語版の有用性を高めるために,大学生男女を対象に検討をおこなった。
方 法
協力者 大学生女子267名,大学生男子250名を分析の対象とした(平均年齢=20.2歳 (SD=1.6))。
手続き 女子は講義終了時に質問紙を直接配布し,後日に回収した。男子はウェブ調査をおこなった。いずれも回答開始前に文書で,研究の趣旨及びプライバシー保護等の説明をし同意後に回答をするよう教示した。なお,本研究はお茶の水女子大学の倫理委員会の承認を受けている。
調査内容 ECQ日本語版 邦訳後,翻訳業者がバックトランスレーションし,その意味内容をネイティブが確認した。
構成概念妥当性確認のための尺度 van Bruggenら(2017)の研究を参考に選択した。日本版「人生の意味尺度」(MLQ)(島井他, 2005),死に対する態度尺度(DAP)(河合他, 1996),Big Five尺度(N)(和田, 1996),The short intolerance of uncertainly scale日本語版(IUS)(不確実さ不耐性)(竹林他, 2012),新版STAIの特性不安(肥田野他, 2000)を使用した。
結 果
日本語版の因子構造 オリジナルと同様に一次元構造の尺度であるかを確認するために主成分分析をおこなった。その結果,すべての項目の第1成分への負荷量は.56以上となり,寄与率は54.37%であった。
 次に,性別による因子構造の違いについて多母集団の同時分析(確認的因子分析)により検討したところ,適合度の指標はGFI=.760,CFI=.842,RMSEA=.076となった。RMSEAの値が.08以下であったことから,男女間で配置不変性であることが推測された。さらに,男女のパスに等値制約を置いたモデルとのχ2の差を検定したところ,有意とはならなかったことから(Δχ2(21)=14.20,n.s.),男女間で測定不変性であると判断した。なお,α係数は.96であった。
構成概念妥当性の確認 ECQ日本語版と各尺度とのピアソンの積率相関係数を算出し,Table 1に示した。
考 察
 本研究では,実存的不安を測定する尺度であるECQの日本語版の作成を試みた。オリジナルと同様の一次元構造となり因子的妥当性は確認された。α係数の値から十分な内的整合性も認められた。さらに,多母集団の同時分析の結果は,この尺度は男女同じように使用することが可能であることを示唆するものである。また,ECQ日本語版は,妥当性確認のいずれの尺度とも有意な相関が認められ,十分な構成概念妥当性を備えていることが示された。これらの結果は,ECQ日本語版が実存的不安を測定する有用な尺度であることを示唆する。しかしながら,確認的因子分析の結果は,モデルのデータに対するあてはまりを十分に支持するものとはいえない。今後は対象数の増加や対象年齢層の拡大など,さらなる検討が必要であると思われる。また,メンタルヘルスとの関連から,健常群と臨床群との比較検討をおこなうことも有効である。(利益相反:申告すべきものなし)
引用文献
van Bruggen et al. (2017). The existential concerns questionnaire (ECQ): Development and initial validation of a new existential anxiety scale in a nonclinical and clinical sample. Journal of Clinical Psychology, 73, 1692-1703.

キーワード
実存的不安/尺度作成


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