発表

1B-028

対人援助職の寄り添い尺度の作成

[責任発表者] 井川 純一:1
[連名発表者・登壇者] 中西 大輔:2, 志和 資朗:2, 河野 喬#:3
1:大分大学, 2:広島修道大学, 3:広島文化学園大学

目的  教育・医療福祉現場において「寄り添い」という言葉が流行している (前田他, 2014)。この流行の要因として,「寄り添い」のイメージに着目した場面想定法実験では,「寄り添い」という用語を使用することで,支援に失敗した専門家のネガティブイメージが抑制されることが示唆されている (井川他, 2015)。この結果は,「寄り添い」が支援がうまくいかない場合の免罪符として利用されてしまう可能性を示唆する。また,学生を対象とした囚人のジレンマ実験では,元々寄り添い傾向の高い人が,他者に対して利他的に振る舞うとは限らないことが示されている (井川他, 2017)。以上の結果から「寄り添い」は具体的な支援そのものではなく,支援者の心情的なものを漠然と示す用語であると言えるだろう。では,支援者は自らの実践のうち,どのような側面を「寄り添い」と認識しているのであろうか? 本研究の目的は,対人援助職にとっての「寄り添い」を定量的に測定するための寄り添い尺度を作成することである。
方法  手続き 尺度の内容的妥当性を担保するため,まず介護職 (112名) に対して,『あなたにとってクライアントに「寄り添う」ということは具体的にどのようなことを言いますか? できるだけたくさん箇条書きにしてください』と教示し,記述データ357件を収集した。次に,収集した記述を看護師,作業療法士,介護福祉士等の複数の専門職とともにKJ法を用いて分類し,集中討議によって質問紙調査原案 (95項目) を作成した。以上の手続きを用いて作成した質問紙原案は,1,022人の対人援助職を対象としたWeb調査における探索的因子分析の結果を踏まえ,それぞれ5項目からなる7因子に再構築された (研究1)。最後に,看護師 (136名)・介護士(135名)・ソーシャルワーカー (134名) を対象としたWeb調査によって尺度の外的妥当性について検討した (研究2)。
 質問紙  研究1で作成した寄り添い尺度は,『あなたがクライアント(職務上の援助・支援対象者)と関わる際の気持ちや態度に当てはまるかどうかを教えてください』という質問に対し,「5: 非常に当てはまる」から「1: まったく当てはまらない」までの5件法で回答させた。また,基準関連妥当性を確認するため,他者意識尺度 (辻, 1993) から内的他者意識 (7項目),プライベート空間機能尺度 (泊・吉田,1998) から空間機能 (7項目),多次元共感性尺度 (鈴木・木野, 2008) から共感的関心 (13項目),個人的苦痛 (6項目),気持ちの想像 (5項目),触覚抵抗尺度10項目 (山口,1998) を抜粋して使用した。
結果  Table1に寄り添い尺度の質問項目を示す。因子構造について検討するために,研究1で内容妥当性の確認された7因子構造を採用して確認的因子分析を行った。因子間相関の高いF1・2・3・5・7に上位因子 (精神的支援と命名) を仮定した高次因子分析を行い,適合度を算出したところ良好な値が認められた。 次に,寄り添い尺度のそれぞれの因子の基準関連妥当性について検討するために,平均値で算出した尺度得点とその他の尺度との相関分析を行った。共感的関心 (α=.84),気持ちの想像 (α=.86),内的他者意識 (α=.91) 及び空間機能 (α=.91) は,身体接触を除くすべての寄り添い因子と有意な中程度の正の相関が認められた (rs >.40, ps <.01)。また,個人的苦痛は,プロ意識,安心コミュニケーション,受容と共感とと有意な負の相関が認められた (rs >-.15, ps <.01)。さらに,触覚嫌悪と身体的接触には有意な負の相関が認められた (r=-.14, p <.01)。
 考察  本研究では,対人援助職にとっての「寄り添い」を定量的に測定するための尺度開発を行った。予備調査において,複数の対人援助職によるブラッシュアップを経たことで,内容的妥当性は担保された。また,Web調査によって尺度の内的妥当性及び基準関連妥当性を検討した結果,7因子構造を持つ寄り添い尺度の妥当性が確認された。今後クライアントの持つ,専門職への期待と専門職が重要視する寄り添いとの間にどのようなギャップが存在するかを検討することで,「寄り添い」の使用が援助者自身の心的な安定やクライアントとの間の信頼関係の構築にどのような影響を及ぼしているのかを明らかにする必要がある。
引用文献 井川純一・中西大輔・前田和寛・河野喬・志和資朗 (2016). 対人援助職の「寄り添い」が印象形成に与える影響: 場面想定法を用いた予備的検討 修大論集, 57, 163-169.
井川純一・中西大輔・中川裕美・志和資朗・前田和寛・河野喬 (2017). 対人援助職の「寄り添い」が印象形成に与える影響: 場面想定法を用いた予備的検討 中国四国心理学会論文集, 50, 49.
 本報告はJSPS科研費 16K04283『寄り添いをキーワードとした援助者─クライント関係におけるフレームワークの構築』の助成を受けたものです。

キーワード
寄り添い/尺度作成/対人援助職


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