発表

1B-026

いのちと死の授業による変化
生まれてきたことへの意識の違いに注目して

[責任発表者] 伊藤 美奈子:1
1:奈良女子大学

目 的
 社会問題にもなった子どもたちの自殺が後を絶たない。こうした現状に対する課題として掲げられたのが,生と死を考える教育の推進である(兵庫・生と死を考える会,2007)。今も,教育現場では,さまざまな生や死を題材にした授業実践が行われている。しかし,その教材や指導のあり方について悩む教員は多いといわれる。
 そこで,本研究では,子どもたちにいのちと死を伝えることを目的として開発されたDVD「いのちと死の授業-難病と闘って気づいたこと:白血病を克服した患者の体験を伝える授業の取り組み」(伊藤・相馬,2017)を取り上げ,その視聴前後に行った調査結果をもとに,子どもたちの死生観の変化や授業としての効果を,“生まれたことへの意識”の違いに注目して検証する。
方 法
調査時期:2017年9~10月。
調査方法:A女子高校生345名とB専門学校生徒313名(すべて女子。計658名)に依頼した。調査(視聴前後に実施)とDVDの内容について各学校で検討を重ねた結果,承諾を得た。身近な人の死を経験した者等は事前に把握し,参加の可否を十分に検討した。調査前に,「調査結果は成績には関係がない」「調査の途中で中断することは可能」等伝えた。さらに,調査後にショックや心身の変化がないか十分に観察・配慮すること,および必要なケースについては継続的な支援を求めた。
調査内容:①「生きる意欲」「抑うつ感」各5項目(伊藤・相馬,2019)。4件法。②いのちと死のイメージ:形容詞9対のSD尺度(6件法)。③生まれたことについての評価(4件法)
結果と考察
 「生まれてきたことをどう思うか」に対し<とても良かった>は300人,<良かった>は272人,<あまり良くなかった>は48人,<良くなかった>は4人となり,9割を超える子どもたちが生まれてきたことを肯定していた。<あまり良くなかった>と<良くなかった>を加えた52人をまとめ,3群に分類した。この3群と時期(視聴前と後)による2要因混合分析を行った結果(Table1),「生きる意欲」については交互作用が見られた。3群それぞれに事前と事後の平均をt検定した結果,3群とも事前より事後で「生きる意欲」得点が上がることが示された。そこで,「生きる意欲」得点の事前と事後の差異得点を算出し,その結果を1要因分散分析したところ,<とても良かった(平均.07)>群と,<良かった(.18)><良くなかった(.21)>両群との間に有意な差が確認できた。生きる意欲は,すべての群で上昇するが,とくに自分が生まれてきたことの肯定度が低い群の方が上昇率は大きい。一方,「抑うつ感」得点は,前後,群間という2つの主効果が有意となり,交互作用は見られなかった。これより,生まれたことを肯定する群ほど抑うつ感得点は低いこと,またこの3群いずれも,抑うつ感は事前より事後で低下することが明らかになった。
 次に,いのちと死のイメージを,生まれてきたことへの認識3群で比較する。生まれてきて<とても良かった>群(Figure1)は,いのちと死を対照的なものとしてイメージしている。一方,DVD視聴の前後ではそれほど大きな変化は見られない。また<良かった>群は,いのちと死のイメージの差(対照性)は小さくなり,DVD視聴前後で,とくにいのちのイメージがより楽しく美しい方に,また,より怖くなく辛くない方へと変化した。最後に,生まれてきたことを良く思っていない群(Figure2)は,いのちと死のイメージの対照性が崩れ互いに近接してくる。とくにDVD視聴前のいのちのイメージは,プラス面は低くマイナス面は強くイメージされ,いのちと死が同じくらい“怖く辛い”ものと認識されていることがわかった。それがDVD視聴後は,いのちはより楽しく美しく,死のイメージはより怖く辛いイメージに変化し,視聴前よりはいのちと死のコントラストが大きくなった。

キーワード
いのちと死の授業/生まれてきたことへの意識/いのちと死のイメージ


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