発表

1B-024

サイコパシー特性は他者の恐怖に対する反応抑制の失敗を助長するか
視線方向の異なる顔表情による検討

[責任発表者] 大隅 尚広:1,2
1:国立精神・神経医療研究センター, 2:慶應義塾大学先導研究センター

目的
 サイコパシーは利己性,冷淡さ,衝動性を特徴とするパーソナリティ特性であり,攻撃行動と強い関連がある。サイコパシーによって攻撃行動が助長されるメカニズムについて,防御システム (恐怖や不安) の機能低下と暴力抑制システムの機能低下という2つの仮説がある。前者では,脅威を予期させる信号に鈍感であるために,罰の対象となる攻撃行動を抑制できないと説明される (Patrick, 1994)。後者では,他者の苦痛を知らせる信号に鈍感であるために,他者が苦しむ攻撃行動を繰り返してしまうと説明される (Blair, 1995)。それぞれの仮説は異なる研究によって支持されており,たとえば顔表情の認識において,怒りではなく恐怖の顔表情に関する成績がサイコパシーによって低下するという知見は,暴力抑制システムの問題を支持する (Blair et al., 2004)。ただし,恐怖表情に対する反応抑制に関するサイコパシー特性の影響ついては検討が乏しい。
 観察者が捉える顔表情の意味は,その視線の方向によって異なることが示唆されている (Adams & Kleck, 2003)。たとえば恐怖表情については,観察者以外に視線が向けられている場合,周囲に脅威が存在することを知る信号となるが,観察者に向けられている場合にはそのような意味を含まないと考えられる。したがって,視線が正面を向いているのか逸れているのかにより,恐怖表情に対する反応の抑制の失敗についての解釈は異なる。そこで本研究では,怒りと恐怖の顔表情に対する反応抑制にサイコパシー特性が及ぼす影響について,各表情の視線方向を操作して検討した。

方法
 参加者 インフォームドコンセントが得られた成人48名 (男性13名,平均年齢33.0±12.6歳) が本研究に参加した。
 サイコパシー特性 日本語版Levenson Self-Report Psychopathy scale (杉浦・佐藤,2005) によりサイコパシー特性を評定した。本研究ではGarofalo et al. (2018) の3因子モデルに基づき,利己性,冷淡さ,反社会性の得点を算出した。
 課題 参加者は顔を刺激としたGo/No-Go課題を実施した。視線が正面向きの怒りと恐怖,および視線が逸れている怒りと恐怖という4種類の顔刺激 (男女3名ずつ) がランダムに提示され,指定された刺激 (Go刺激: 80%) が提示されたらできるだけ素早くボタンを押し,他の刺激 (No-Go刺激: 20%) が提示されたらボタンを押さないよう教示された。視線の向きによらず,怒り表情がNo-Go刺激となるブロックと,恐怖表情がNo-Go刺激となるブロックがあり,各ブロックを2回ずつ実施した。実施順序にはカウンターバランスを施した。刺激は500ms提示され,刺激間間隔は1000‒1500msであった。刺激提示後1000ms以内のボタン押しを反応とみなした。

結果
 No-Go刺激に対する誤反応率について,階層線形モデルを用い,表情の種類と視線の方向をレベル1 (within変数) に投入し,さらに,サイコパシー特性のうち利己性をレベル2 (between変数) に投入し,それぞれの影響を分析した。その際,冷淡さと反社会性,性別,年齢を統制した。その結果,表情と視線と利己性の交互作用が認められ (β=0.12, SE=0.06, p<.05, 95%CI=0.002‒0.231),恐怖表情がNo-Go刺激の場合,視線が正面のときには利己性の影響が見られなかったが,視線が逸れているときには利己性によって有意に誤反応が増加した (p<.01, Fig. 1)。その一方で,怒り表情がNo-Go刺激の場合には利己性の影響は見られず,全体的に視線が正面を向いているときよりも逸れているときに誤反応が多かった。冷淡さもしくは反社会性をレベル2の説明変数とした場合についてもそれぞれ同様に分析したが,それらの影響は見られなかった。

考察
 サイコパシー特性の利己性により,視線が逸れている恐怖表情に対する反応抑制の成績が低下した。この結果は,脅威の存在を暗示する信号に応じて行動を抑制できないということを示唆しており,暴力抑制システムというよりも防御システムの機能低下と整合性がある。その一方で,視線が正面を向いている恐怖表情についてはサイコパシー特性の影響が見られなかった。ただし,正面向きの恐怖表情の検出はサイコパシー特性によって遅延する (大隅, 2019)。そのような知見と合わせると,サイコパシーには防御システムと暴力抑制システムの両方に共通する神経基盤に機能低下があるという見解 (Blair, 2005) が適切かもしれない。

引用文献
Blair, R. J. R. (2005). Applying a cognitive neuroscience perspective to the disorder of psychopathy. Dev. Psychopathol., 17, 865‒891.

キーワード
Go/No-Go課題/表情認知/恐怖


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