発表

1B-022

抑うつ症状と幸福感の重視の因果関係

[責任発表者] 菅原 大地:1
[連名発表者・登壇者] 杉江 征:1
1:筑波大学

 幸福を追い求めることは,必ずしも幸福感を高めることにはつながらず,時に精神疾患のリスクファクターにもなりえることが示唆されている(Mauss et al., 2011)。Mauss et al.(2011)は,幸せになることを追求しようとする傾向として幸福感の重視(valuing happiness)という概念を提唱し,いくつかの精神疾患との関連を検討した。これまで幸福感の重視は抑うつ症状と正の関連を示すだけでなく,大うつ病罹患者が非臨床群と比べて幸福感を重視しやすいことが報告されている(e.g., Ford et al., 2014)。このような関連は臨床群だけでなく,非臨床群の青年を対象とした場合にもみられる(Gentzler et al., 2019)
 しかし,抑うつ症状と幸福感の重視の因果関係は明らかになっておらず,抑うつ症状が悪化することで,幸福感の重視が高まるのか,それとも,幸福感を重視する傾向が抑うつ症状の悪化を生じさせているのかは定かではない。
 因果関係を推定する方法として,縦断調査のデータについて1時点目の変数から2時点目の変数をそれぞれ予測する交差遅延モデルと,同時的での変数間の関係性を検討する同時効果モデルの比較が挙げられる(豊田,1998)。交差遅延モデルでは変数間の因果関係とその関係の強さ,同時効果モデルでは縦断調査の感覚の効果に加えて,標準化回帰係数の値から変数間の因果関係について検討することができる(Finkel, 1995)。
 以上を踏まえ,本研究では,短期的な縦断調査を行い,抑うつ症状と幸福感の重視の因果関係を検討することを目的とする。
 方法
調査協力者 Web調査(株式会社マクロミル)に調査を依頼した。日本人成人212名(男性105名,女性107名,平均年齢 = 40.00歳, SD = 15.38)が回答した。
調査時期 2016年11月(Time1)と12月(Time2)に実施した。
質問項目 
抑うつ症状 Furukawa et al.(2006)の日本語版K6を使用した(6項目4件法)。α係数は.93と.92であった。
幸福感の重視 Ford et al.(2015)の日本語版Valuing Happiness Scaleを使用した(5項目7件法)。α係数は.79と.77であった。
 結果
 幸福感の重視と抑うつ症状の相関係数を算出した。同時点での相関係数はTime1でr=.25(p<.001),Time2でr=.23( p<.001)となり,有意な正の関連が示された。
 抑うつ症状と幸福感の重視の双方の因果関係を仮定した交差遅延モデルを検討した。うつ病の罹患率には性差があること,参加者の年代が多岐に渡ることを踏まえて年齢と性別の影響を統制した(Figure 1)。交差遅延モデルの適合度は,CFI=1.00,RMSEA=.00,ACI=40.16であった。同尺度間の標準化回帰係数について,うつ症状はβ=.71(p<.001),幸福感の重視はβ=.58(p<.001)であった。Time1の抑うつ症状からTime2の幸福感の重視への標準化回帰係数は有意であったが(β=.08, p<.05),Time1の幸福感の重視からTime2の抑うつ症状へのパスは有意ではなかった(β=-.01, p>.10)。
 同時効果モデルの適合度は,CFI=1.00,RMSEA=.00,ACI =40.16であった(Figure 1)。Time2において,抑うつ症状から幸福感の重視へのパスは有意であったが(β=.11, p<.05),抑うつ症状から幸福感の重視へのパスは有意ではなかった(β=.02, p>.10)。
 考察
 本研究の目的は,縦断調査により抑うつ症状と幸福感の重視の因果関係を検討することであった。交差遅延モデルおよび同時効果モデルにおいて抑うつ症状が幸福感の重視を予測することが示された。以上の結果から,抑うつ症状が強くなると幸福感の重視が高まるという関係が示唆された。すなわち,幸福感の重視の高さがうつ病のリスクファクターとなるのではなく,うつ病への罹患による何らかの影響,あるいは抑うつ症状として,幸福感を重視する傾向が強まると考えられる。抑うつ症状として,現在の自己を否定的に捉え,慢性的な抑うつ状態から回復しようと思うがあまり,幸福を追い求めるのかもしれない。
 Catalino et al. (2014)は,幸福感の重視には一瞬一瞬の幸福感を過剰に感じようとする感情の上方制御方略が関連することを指摘している。抑うつ症状によって快感情の下方制御方略を取りやすくなるという知見を踏まえると(Jenna et al., 2014),抑うつ症状によって快感情に対して適切な制御が行えず,過剰に上方あるいは下方といった制御方略を取りやすくなる可能性がある。
 幸福感の重視がwell-beingを高めるかどうかは文化差があることを踏まえると(Ford et al., 2015),本研究の同様のモデルが他の文化圏でもあてはまるか,その影響の強さに違いがあるかといった検討も興味深い。

キーワード
抑うつ症状/幸福感の重視/交差遅延モデル


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