発表

1A-036

臨床家が青年期以降の自閉スペクトラム症を疑う根拠
-予備研究:WAIS下位尺度得点からの検討-

[責任発表者] 伊藤 宗親:1,2
[連名発表者・登壇者] 服部 信太郎#:2
1:岐阜大学, 2:岐阜病院

<目 的>
 精神病院での日常業務において,主治医による知能検査の依頼はこれまでの依頼理由に加えて,青年期もしくは成人の自閉スペクトラム症(以下,ASD)の鑑別診断の一助を理由とするものが多くなってきている。主治医は確定診断を下せるほどのエビデンスを診察では確認できず,また,そういった患者の多くが単独で来院するため,患者が子どもである場合のように家族からの生育歴聴取ができないためである。これら情報不足を補うひとつとして知能検査の結果が上記判断において期待されるのである。
 では,精神科医が診察時に患者に対して違和感を抱く点(あるいはASDらしさを感じてしまう点)と知能検査結果との間に対応関係はあるのだろうか。本研究では,冒頭に挙げた理由によって依頼され,すでに収集されているデータをもとに,精神科医の違和感に対応した患者の特性が知能検査上に表れ得るのか,表れるとすればどのように表れるのかを探索的に検討することを目的とした。

<方 法>
対象者:精神科外来通院中もしくは過去に通院していた青年期以降の者でASD疑いにて知能検査を実施した者19名(男性13名,女性6名)。平均年齢は34.32歳(SD = 13.86, Min = 16, Max = 58)であった。なお,その後,総合的に判断してASDと見なされた者は19名中6名であった(なお,このことは19名の対象データが確定した後に知らされた)。
知能検査:すべての検査は日常業務の一環として実施され,上記19名のうち,15名がWAIS-3を,4名がWAIS-4を受検していた。したがって,両検査に共通する下位尺度(下位検査)のみが分析対象とされ,全下位尺度が実施されていない場合は当該尺度得点は欠損値として処理された。
付記:本研究は後ろ向き研究であるが,当該医療機関によって承認を得ている。また,本研究による利益相反はない。

<結果および考察>
 後にASDと見なされた者6名をASD群,他の13名を非ASD群として,群ごとに知能検査の各下位尺度得点の平均値を算出した(Table 1参照)。なお,フルスケールIQの平均は,ASD群 = 89,非ASD群 = 90であった。各下位尺度ごとに群間で,マンホイットニーのU検定を行ったところ,「絵画完成」のみ有意傾向(p < .1)が認められた。
 有意傾向ながらも絵画完成において群間で差が見られたことは,先に述べた精神科医の違和感について知能検査上でも確認される可能性が示唆されたといえよう。絵画完成は,イメージとしての知識と照合させつつ刺激図版をくまなくscanし,その欠損部分を指摘するという作業が求められ,視覚認知,視覚的体制化,集中力などの能力を反映しているとされる。
 Nydén et al.(2010)の行った研究データでは,成人ASD者( n = 55 )の絵画完成の平均評価点は8.08であり,AD/HD者( n = 73 )の同平均評価点8.40との間に有意差は認められなかった。それらと比較しても本研究のASD群の平均評価点は低い。単純比較はできないが,対象を分析的に知覚したり統合的に見るという能力の弱さが顕著であるということは,本質的な部分を理解せず,非本質的部分に注目することやscanningの不調,一般とは異なる認識を示す可能性を高めるだろう。それらが,日常に表れた際に受け手は,違和感を覚えやすいと思われる。
 本研究の知見はデータ数の少なさから限定的であることを免れないが,神尾(2012)が指摘しているように他疾患との鑑別は重要な課題であり,それらに資するデータの収集ならびにそこから得られる知見の集積が望まれよう。

<引用文献>
神尾陽子 (2012). 成人期の自閉症スペクトラム診療実践マニュアル 医学書院
Nydén, A., Niklasson, L., Stahlberg, O., Anckarsater, H. Wentz, E., Rastam, M. ,& Gillberg, C.(2010). Adults with autism spectrum disorders and ADHD neuropsychological aspects. Research in Developmental Disabilities, 31, 1659-1668.




Table 1 各群ごとのWAIS下位検査得点(平均値)

キーワード
自閉スペクトラム症/WAIS/絵画完成


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