発表

1A-032

睡眠ワークシートを用いた大学生の睡眠改善効果とその課題性の検証

[責任発表者] 原田 真之介:1
[連名発表者・登壇者] 上床 幸太#:1, 村上 純一#:2
1:大阪大学, 2:明和会琵琶湖病院

【問題と目的】 大学生は,高校生活と異なって生活リズムが不規則となり,夜更かしも生じやすいため,慢性的な睡眠障害を抱えることが多いとされる(三宅ら,2015)。また大学生の睡眠障害は,学業や人間関係にも負の影響を与え,精神障害の発症にも繋がるリスクがある(水月ら,2018)。そのような背景から,大学生の睡眠障害の1次予防や2次予防の対策活動の必要性が言われている。本研究は,大学生の不眠症,睡眠不足,睡眠リズム障害による健康被害の予防を目的とした「睡眠対策ワークシート」を作成し,その効果の検証と課題性について明らかにした研究である。
【方法】 本研究で開発したワークシートは,村上ら(2016)により開発され,臨床例に対しての効果が実証されているものを参考に,大学生向けに開発者の監修のもと改変した。本ワークシートは,10分以内に回答でき,回答者の睡眠問題の把握とその効果的な介入指導を行えるよう構成されている(発表時に現物持参)。本研究では,睡眠障害やそれに関する心身の治療を受けていない一般大学生43名(男性:24名,女性:19名)に上記のワークシートを配布して,ベースラインとなるアウトカムの質問紙を配布した。アウトカムは,睡眠障害の臨床診断としても用いられる日本語版不眠重症度質問票(以下,ISI-J),日中の眠気の度合いを測定するエップワース眠気尺度表(以下,ESS)を用いた。配布時は,研究者から本ワークシートは自身の睡眠の問題が多角的に把握できること,それぞれの睡眠問題に関する効果的な助言が記載されていることを教示した。ワークシートの配布から2週間後,効果検証のため上記の2種のアウトカムを再び配布し,回答を求めた。またアウトカムに加えて,2週間の間に本ワークシートから得た助言を実際に取り組んだかについて4件法(1.取り組んでみて,睡眠の改善に役立った,2.取り組んでみたが,睡眠の改善には役立たなかった,3.取り組もうとしたけど,取り組めなかった,4.取り組まなかった)で回答を得た。さらに,上記の4件法の内,2.3.4.に回答した者には,その理由を自由記述で回答を求めた。以上の手続きにより得たデータの内,アウトカムの得点の変化については,SPSSを用いてt検定による分析を行った。t検定での分析は,全体数におけるpre-postのアウトカム数値の比較の他,男女ごと,文系と理系ごとにも分析を行った。自由記述については,KJ法を援用したカテゴリー分類を行って分析した。
【結果】≪≫:カテゴリー名 ベースラインにおけるISI-Jの平均は,9.21(SD=±4.7)点で軽度の睡眠障害のレベルに該当した。ESSの平均は,8.47(SD=±3.6)点とこちらも日中の眠気による軽度の障害レベルに該当した。ワークシートによる介入後の得点は,ISI-Jが9.05 (SD=±5.2)点,ESSが8.58(SD=±3.3)点であり,上記のベースライン時の得点との間で対応のあるt検定を行った結果,有意差は見られなかった。また男女ごとや,文系と理系ごとの分析についてもベースライン時の得点と介入後の得点で有意差は見られなかった。研究協力者のワークシートへの取り組みに関しての4件法では,「1.取り組んでみて,睡眠の改善に役立った」が4名,「2.取り組んでみたが,睡眠の改善には役立たなかった」が3名,「3.取り組もうとしたけど,取り組めなかった」が11名,「4.取り組まなかった」が25名であった。上記の4件法の2.3.4.に回答した研究協力者による上記の該当理由を自由記述した結果については,≪失念の問題≫,自らの睡眠を改善する≪自己効力感の低さ≫や≪必要性の無理解≫,自身の生活スケジュールや習慣を変えられない≪生活スケジュール上の問題≫,≪既存の習慣への固執≫の問題がカテゴライズされた。
【考察】 本研究では,医療場面での有効性が示されている睡眠習慣への介入ワークシートを開発者の監修のもと,大学生向けに改変したワークシートを使用した。その結果,全体,男女別,文系と理系別,いずれの設定でも介入前と介入後で有意な得点減少が見られず,有効性を示すことができなかった。また本ワークシートから得られた睡眠改善に向けた助言については,半数以上の学生が取りまず,役立ちを実感しなかった。以上の結果の背景には,ワークシートで得られた助言を失念することや,睡眠改善の自己効力感や必要性の無理解の問題,さらには生活スケジュールや既存の習慣を変えられない問題が存在すると分かった。上記の自由記述から得られた問題は,本ワークシートの配布のみでの介入の限界性を示唆すると考えられる。以上の限界性を踏まえて,本ワークシートの配布に加えて,介入対象の大学生の睡眠改善に向けたモチベーションを向上させる心理教育的な介入や,失念防止のメールや電話連絡,本人の生活スケジュールや習慣も考慮した上での生活行動の再構成を目的としたカウンセリングセッションの設定などが今後必要と考えられる。
【文献】
三宅典恵・岡本百合・神人 蘭・永澤一恵・矢式寿子・内野悌司・磯部典子・高田 純・小島奈々恵・二本松美里・吉原正治. (2015). 大学生を対象とした睡眠調査について. 総合保健科学:広島大学保健管理センター研究論文集, 31, 7-12.
水月 昇・増村雅尚・阪本達也・石倉恵介. (2018). 大学生の健康度と生活習慣の実態―平成27年度新入生の前期と後期の調査結果の比較―. 崇城大学紀要, 43, 9-18.
村上純一・吉村道孝・北沢桃子・石田展弥・角谷 寛・山田尚登. (2016). 非専門家向け,自記式(10分・2回)不眠症の簡易診断・介入ワークシートの開発. 日本睡眠学会第41回定期学術集会発表論文集.

キーワード
大学生/睡眠障害/ワークシート


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