発表

1A-031

協同ブロック制作におけるロールフルネスの促進効果

[責任発表者] 加藤 大樹:1
[連名発表者・登壇者] 鈴木 美樹江:2, 日比野 直子#:1
1:金城学院大学, 2:人間環境大学

問題と目的
 ロールフルネスとは,「日常生活における持続的な役割満足感」を表す心理学的概念である(Kato & Suzuki, 2018)。従来の研究においては,たとえば親役割,職業的役割など,特定の状況や立場との関連の中で役割感を捉えることが多かったが,ロールフルネスは,特定の状況に依存しない,より一般的な役割満足感であることが特徴である。Kato & Suzuki (2018)は,個人のロールフルネスの測定のための質問紙尺度を開発した。ここには,「社会的ロールフルネス」と「内的ロールフルネス」の2つの下位尺度が含まれる。社会的ロールフルネスは,「自分の存在が社会の中で役に立っている」などの項目から構成され,対人関係や社会的経験をもとに獲得された役割満足感を反映したものである。これに対して,内的ロールフルネスは,「役割によって自分に自信が持てる」などの項目から構成され,経験をもとに個人の中に内在化された特性的な役割満足感を表すものである。
 ロールフルネスを促進することは,社会適応やメンタルヘルスの維持向上のためにも重要な要素になる。臨床心理学的援助の現場においては様々なグループアプローチが活用されている。本研究では特にブロック玩具に焦点を当て,協同ブロック制作体験がロールフルネスの促進に与える影響を検討することを目的とする。本研究で用いるブロック玩具は,一般に広く親しまれているプラスチック製の積み木状の玩具を指す。元々は子どものための玩具として開発されたものであるが,基礎板と呼ばれる保障された領域の中で,様々な形状のブロックや既成の人形を組み合わせて自由な表現をすることで,年齢を問わず非言語的な心理療法の媒体として活用されている。グループ場面における研究としては,他者と協同して制作に取り組むことにより,居場所感や信頼感が促進されることが認められている(Kato et al., 2012, 2013)。また, 加藤ら(2013)は,自閉症スペクトラム障害をもつ児童・青年のグループにおいて協同ブロック制作を実施し,参加者どうしの信頼感が有意に促進されることを確認している。本研究では,協同制作体験が参加者のロールフルネスの促進に与える影響を検討することを目的とし,制作前後におけるロールフルネスの変化を比較する。

方 法
 女子大学生59名(平均年齢20.7際)が調査に協力した。臨床心理学の授業の中で,協同ブロック制作への取り組みおよび質問紙への回答が求められた。手続きとしては,まず,調査協力者を3〜4人のグループにランダムに分類した。その後,50cm四方の緑色の基礎板(25cm四方の基礎板4枚を正方形に配置)の上に,ブロックや既成の人形を用いてグループで協力して自由な表現を行うことが求められた。素材として,直方体状の様々な色の基本ブロック,木や窓枠などの特別な形状の特殊ブロック,様々な職種をもつ既成の人形やその付属物が,制作に十分な量用意された。制作の前後で,ロールフルネス尺度(Kato & Suzuki, 2018)への回答が求められた。ロールフルネス尺度は,「社会的ロールフルネス」(全4項目),「内的ロールフルネス」(全3項目)の2つの下位尺度から構成され,「全くあてはまらない」(1点)から「よくあてはまる」(5点)の5件法で評定を行う。

結果と考察
 協同制作前後におけるロールフルネス尺度の各下位尺度得点が比較された。その結果,社会的ロールフルネスでは,制作後において有意な得点の上昇が認められた(t (58) = 7.33, p < .01, d = 0.87)。内的ロールフルネスにおいても,制作後において有意な得点の上昇が認められた(t (58) = 3.39, p < .01, d = 0.44)。
 本研究の結果より,協同ブロック制作は参加者のロールフルネスを促進する効果があることが認められた。効果量の大きさから,特に社会的ロールフルネスの促進が顕著であることを見て取ることができる。社会的ロールフルネスは,具体的な経験に基づく自分自身の役割の実感を表すものである。そのため,協同制作を通して,例えば,テーマを決定する,素材を探す,組み立てるなどの役割が自然に分化し,参加者個々の社会的ロールフルネスが促進されたと考えられる。これに対し,内的ロールフルネスは,役割経験の蓄積によって個人の中に内在化された自信やアイデンティティを表すものである。社会的ロールフルネスと比較して,獲得には持続的な体験の積み重ねが重要となると考えられる。今回は,1回の制作による短期的な変化を検討したが,継続的なグループ活動などを通した縦断的な検討を行うことも今後の課題であると考えられる。
 本研究は,大学生を対象とした基礎研究という位置づけであるが,協同ブロック制作は幅広い年代への適用が期待される。筆者らは,大学内の子育て支援施設において,親子を対象としたグループにおいても協同ブロック制作を導入している。実践からの知見も総合して,今後の活用可能性を探っていきたい。

キーワード
ロールフルネス/ブロック/グループアプローチ


詳細検索