発表

1A-029

「うつ病の友人を援助することの利益」の中核的要素の特定
ネットワーク分析に基づく検討

[責任発表者] 樫原 潤:1
[連名発表者・登壇者] 坂本 真士:2
1:日本大学/日本学術振興会, 2:日本大学

問題
 近年,ピアサポートを通じてうつ病の早期予防を目指す上で,「うつ病の友人を援助することの利益・コスト感」をいかに調整するかが課題となっている。例えば,ピアサポート教育の受講者を対象としたインタビュー (Rossetto et al., 2018) では,「受講後,うつ病の友人を実際に目にしたが,『余計な責任を抱えたくない』と思い,援助行動に踏み切れなかった」という語りが得られており,コスト感が利益を上回るために援助行動を実施できないケースの存在が明らかになっている。同様に,大学生が対象の自由記述調査 (Kashihara & Sakamoto, under review) においても,「うつ病の友人への援助について,行動に踏み切ることの利益が20種類にわたって想起されると同時に,12種類におよぶコスト感が想起されていた」と示されており,援助行動の利益をより感じやすくしてコスト感を低減するための動機づけ調整の必要性が議論された。
 本研究は,上記のKashihara & Sakamoto (under review) の知見を土台に,「援助行動の利益20種類が相互に影響し合う様子」を一種の「ネットワーク」として捉え,20種類のうちいずれがネットワーク内で中核的な役割を果たしているのかを特定することとした。つまり,多くの種類がある「援助行動の利益」のうち,ネットワーク全体を活性化する役割を担い,他の利益に関する気づきを促進しやすいものは具体的に何なのかを本研究では明らかにする。そのことによって,うつ病の早期予防を推進する際に,具体的にどの利益への気づきを促すのが効率的なのか,今後の指針を示すことが本研究の狙いである。
方法
調査概要 2018年11月に,首都圏の私立大学2校で質問紙調査を実施した。回答者は292名 (男性121名,女性171名; 平均年齢19.26歳,SD = 1.08) であった。
場面想定 調査の冒頭で,Kashihara & Sakamoto (under review) と同一のスライド資料を用い,「友人がうつ病の症状を呈しており,援助するかどうかの判断が回答者自身に委ねられている」という場面を提示した。
質問項目 Kashihara & Sakamoto (under review) がKJ法 (川喜多,1967) で抽出した,「うつ病の友人を援助することの利益」のカテゴリ20種類 (Table 1) を提示した。上記の場面想定のもと,20種類の利益をどの程度気にかけるか,7段階 (-3: まったく気にかけない―3: 非常に気にかける) での回答を求めた。
結果
 統計解析ソフトウェアRのqgraphパッケージ (Epskamp et al., 2012) を用い,「うつ病の友人を援助することの利益」の各項目を20個のノードとして表現し,項目間の偏相関係数をエッジとして表現するネットワーク図の推定・出力を行った (Figure 1)。Figure 1に図示されるネットワークの中で,各ノードがどのような機能を担っているかは,strength (他のノードとの偏相関係数の平均値),closeness (ネットワーク上における,他のノードとの平均的距離),betweenness (ノード間を媒介する回数の多さ) という,3点の中心性指標に基づいて評価した。その結果,「症状の自己対処法の理解」というノードが3指標のすべてで相対的に大きな値を示していたと明らかになった (Table 1)。
考察
 以上の結果を踏まえ,数ある「援助行動の利益」の中でも,「症状の自己対処法の理解」がネットワーク全体を活性化する役割を担っていると結論付けた。また,今後うつ病の早期予防を推進する上では,援助を受ける相手にとっての利益や「罪悪感・後悔の回避」といった損失の回避という側面だけではなく,「友人を助けることは,自身が抑うつ的になった際にどう自己対処すればいいかを学ぶ機会ともなるのだ」という,援助を提供する側にとってプラスとなる要素を強調することが有効だろうと考察した。

キーワード
うつ病/援助行動/ネットワーク分析


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