発表

1A-028

鼎談『「べてるの家」に学ぶ』から学ぶ
テキストマイニングとキーワードの分析より

[責任発表者] 小平 朋江:1
[連名発表者・登壇者] いとう たけひこ:2
1:聖隷クリストファー大学, 2:和光大学

目 的 小平・いとう(2016)は,向谷地(2015)「精神障害と教会」をリカバリーの思想が述べられた貴重な文献であるとした。小平・いとう(2018)は,浦河べてるの家と当事者研究にみられる多様なビジュアル・ナラティヴ(やまだ,2018)について,その特徴に注目して整理・分類した。本研究の対象は,浦河べてるの家が誕生した当時から関わった向谷地(ソーシャルワーカー),川村(精神科医師),清水(べてるの家の映画制作者)の鼎談で,浦河べてるの家の原点を知ることができる貴重な資料である。立場の異なる3人の語りは,多声性でナラティヴ・アプローチに通じ,3人の視点を通して,浦河べてるの家の誕生について学ぶことができる。本研究の目的は,向谷地・川村・清水の鼎談から,浦河べてるの家誕生以来の思想と実践を貫くものについて文中のキーワードを手がかりに分析・考察することである。
方 法 1996年出版の博進堂文庫20「『べてるの家』に学ぶ 鼎談 向谷地生良 川村敏明 清水義明」(博進堂)をテキストマイニング分析した。テキストの量的分析には,Text Mining Studio を用いた。単語と係り受けについて出現回数の多い表現を集計した。使用単語のネットワーク分析を行い,どのような話題が語られているのかを明らかにした。好評語・不評語分析でポジティブに用いられている単語,ネガティブな単語を抽出した。
結 果 (1)基本情報総発話回数は124で各発言の平均文字数は194.0であった。延べ単語数は4648で単語種別数1432であった。(2)使用頻度の多い単語(単語頻度分析)
 出現回数の上位16単語は,「べてるの家」「思う」「人」「いう」「いる」「見る」「出る」「ある」「問題」「出会う」「良い」「わけ」「意味」「人たち」「病気」「生きる」であった。(3)3人に特徴的に出現している単語(特徴語分析)向谷地では,「仕事」「昆布」「家」「形」「一人」「浦河」「おむつ」「スタート」「リハビリテーション」「結果」「住居」「発作」など,川村では,「出会う」「医者」「意味」「向谷地君」「治療」「わけ」「テーマ」「精神病」「役割」「病院」「大切」など,清水では,「べてるの家」「向谷地さん」「映画」「主旋律」「言葉」「人」「川村先生」「相手」「問題」「二十分」「成功観」などであった。(4)「べてるの家」を注目語にした係り先(注目語情報) 係り元単語を「べてるの家」では,係り先単語は「メンバー」「映画」「いう」「できる」「いる」「出会う」「来る」などであった。(5)「主旋律」をめぐる川村・清水の対話(原文参照) 川村:(p27)「あの人はいないほうがいい,あいつに出ていってもらおう」という全体一致の声になりそうになったとき,必ず『べてるの家』らしい,まさに主旋律の言葉として「彼は,やはり迎え入れるべき人なんじゃないだろうか,排除ということだけで問題は収まるだろうか」と誰かが言い出すわけです,(p28)悩みや問題を排除しようとするのではなく,悩みを抱え込んで悩み続けようということ自体が彼らの最も本質的な生き方で,悩みを排除するのは自己否定につながっていくという,非常に本質的なことを彼らはよく知っているんです。一見それが消えかかったとき,必ず誰かがこの『べてるの家』の主旋律を口ずさみはじめる 清水:(p28~p29)その「主旋律」という言葉がとても響くんです。外側からだけで見ていたのではわからないけれども,『べてるの家』の中にはその主旋律があって,それが色々な活動の基調になっている,(p68)『べてるの家』には,その「主旋律」を持っているさまざまな人たちがいますね。草創期からの佐々木さんや早坂さん。あの人たちの人間的な味わいには,すごいものがありますね。俳優なんかでも絶対あの味わいは出せない,という何か深い,受け入れてしまった人たちの豊かさがある。
考 察 立場の異なる3人の語りから,べてるの家の理念誕生の背景ともなる原点が,単語の頻度や3人の特徴語,「主旋律」をめぐる対話などから明らかになった。当事者研究における「並立的傾聴」(向谷地,2015)という「横並び」の関係,「『病気の体験を生かした』人生をいつも大切にしてきたのが,べてるの人たちの選択した生き方」(向谷地,2015)というリカバリーの考え方があるが,本研究の分析結果は,これらの背景ともなっている重要な在り処を物語っていると考えられた。
野口(2018)はナラティヴ・アプローチの観点から,当事者研究が共同研究であり,「公共的」であることの意義,オープンダイアローグでは,「個人が取り結ぶ関係の変化が目指される」とし,「ひとりでも頑張れる能力ではなく,みんなで生きていく関係を作ること,そうすれば個人の能力は変わらなくても生きていける」と言及した。「共同創造(co-production)」の考え方(熊谷,2017)を参照し,「主旋律」が大事にされることで,多様なコミュニティにおいて,「べてるの家」的なものは,つくれる可能性があるといえるのではないか。
文 献
●小平朋江・いとうたけひこ(2016).当事者研究とリカバリーの思想:向谷地生良『精神障害と教会』のテキストマイニング分析.第36回日本看護科学学会学術集会(東京)
●小平朋江・いとうたけひこ(2018).浦河べてるの家におけるビジュアル・ナラティヴ:当事者研究とべてるまつりにおける多様に外在化されたもの.日本心理学会第82回大会(仙台)
●向谷地生良・川村敏明・清水義晴(1996). 「べてるの家」に学ぶ.博進堂

キーワード
当事者研究/共同創造/リカバリー


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