発表

3D-018

独立性と協調性の世代差

[責任発表者] 橋本 博文:1
1:安田女子大学

問題と目的 
 過去四半世紀にわたり,文化心理学は個人の心の性質に無視することのできない文化差が存在すること,そしてそうした文化差は,文化内で共有されている自己観の相違という観点から説明されうるという主張を展開してきた。しかし,自己観と一貫する個々人の文化特定的な心の性質が,文化を生きる上でどのように形成されていくのかという問いは,これまでのところ,少数の研究を除いて十分に扱われてきていない。本研究の目的は,文化心理学において議論されてきた文化的自己観に焦点を合わせて,独立性と協調性が年齢とともにどのように変化するのかを探索的に検討することにある。
研究1:方法
 クロス・マーケティング社を介して日本人成人900名(平均年齢:44.2歳)に文化的自己観を測定するための尺度項目への回答を求めた。本研究では,適応論的視点から自己観(独立性・協調性)の文化差を議論する著者らの先行研究(Hashimoto & Yamagishi, 2013; 2016)をもとに,文化差が予測される「自己表現の独立性」と「排除回避の協調性」,さらに文化心理学の枠組みから文化差が予測される「調和追求の協調性」をそれぞれ測定する尺度(各5項目)を用いることにした。調査対象者には,それぞれの項目が,あなた自身にどの程度あてはまるかを7件法で回答させた。
研究1:結果
 尺度の信頼性は満足できる水準にあった(自己表現の独立性α=.85; 調和追求の協調性α=.85; 排除回避の協調性α=.82)。Figure 1には,調査対象者の年齢と文化的自己観尺度の平均値の関係を示している。自己表現の独立性尺度の平均値は年齢とともに上昇する(r =.20, p <.0001)一方,排除回避の協調性尺度の平均値は下降する傾向(r = -.17, p <.0001)が示された。調和追求の協調性尺度の平均値と年齢との間には正の相関が示された(r =.13, p <.0001)。
研究2:方法
 研究1の頑健性を確かめるために,再度,クロス・マーケティング社を介して日本人成人661名(平均年齢:44.8歳)を対象とする調査を行った。研究2では,調査対象者に対して,あなた自身にどの程度あてはまるかを尋ねるだけでなく,理想の自分(あなたがなりたい自分)ならどのように回答すると思うかを尋ねた。著者らの先行研究においては,日本人個々人が理想としている生き方と,現実の自分の生き方とが対応していない事実が示されている。この「理想と現実の乖離」が年齢を重ねるにつれてどのように変化するのかを明らかにするかたちで,独立性と協調性の世代差についての解釈を試みる。
研究2:結果
 尺度の信頼性は研究1と同様に満足できる水準にあった。また,研究1で示された相関パターンもほぼ同様に示された。現実の自分について尋ねた場合,自己表現の独立性尺度の平均値は年齢とともに上昇するが(r =.12, p <.0001),排除回避の協調性尺度の平均値は下降する傾向(r = -.31, p <.0001)が明確に示された。調和追求の協調性尺度の平均値と年齢との間には正の相関が示された(r =.13, p <.0001)。Figure 2には,Figure 1と同様に,調査対象者の年齢(世代別)と自己表現の独立性および排除回避の協調性尺度の平均値(現実・理想)の関係を示している。興味深いことに,理想の自分について尋ねた場合の各尺度の平均値と年齢との間には有意な相関は示されなかった。
考察
 本研究の結果は,年齢を重ねるにつれて,自己表現の独立性尺度の得点が高くなり,また,排除回避の協調性得点が低くなること,さらには,年齢とともに「理想と現実の乖離」が小さくなっていくことを示していた。この点に注目すれば,日本人の若い世代は,理想とする独立的な生き方ではなく,排除を回避するという意味での協調的な生き方を「採用せざるを得ない」との解釈も可能である。また,年齢を重ねるにつれて独立的になることを示唆する本研究の知見は,日本人が協調性を獲得するようになるという文化心理学の前提とは矛盾するようにも思われる。本研究で得られた結果に対しては,自己観が世代から世代へと受け継がれるという観点とは異なる観点からの説明が必要となる。

キーワード
独立性/協調性/年齢


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