発表

3D-017

日本語版中庸尺度の作成及び妥当性・信頼性の検討

[責任発表者] 李 之林:1
[連名発表者・登壇者] 竹村 和久:2, 楊 政達:3
1:早稲田大学, 2:早稲田大学文学学術院, 3:国立成功大学

はじめに
日常生活において,意思決定をする際,個人の場合では,極端な立場を避けて客観的·中立な立場に立ち,集団意思決定の場合であれば自らの意見だけではなく周りの意見も取り入れるというように,中庸な立場から意思決定を行うことが望ましいという規範があると思われる。しかし,これまでの意思決定に関する研究では,このような中庸な立場を取ることが意思決定にどのような影響を及ぼすかについてはあまり検討されていない。「中庸」と心理学,特に意思決定との関係について検討した研究として,呉·林(2005)が「中庸尺度」を作成し,客観性と中立性を重視する情報処理の仕方と,中立的な態度と思考形式について検討した。本研究では,異文化間で中庸に関わる思考形式の異同などが意思決定に与える影響を検討することを目指して,日本語版「中庸尺度」を作成し,その妥当性と信頼性を検討することを目的とした。
方法
質問紙構成 呉·林(2005)の「中庸尺度」は「中庸」という構成概念を「意見表出」の場合に限定し,「まずは多角的な視点から一つの物事を考えて,様々な意見を詳しく検討した後,最終的に自分と全体的な意見を配慮して万全を期す行動を取る」と定義した。このような定義から質問紙は3つの下位尺度,多角思考能力(項目1~5)·全体的思考能力(項目6~10)·ハーモニー(項目11~15)から構成された。なお,項目2と項目11は逆転項目であった。各項目について自分にどの程度あてはまるかを,「全く当てはまらない(1)」から「非常に当てはまる(7)」まで,リッカートの七件法で評価させた。
翻訳 まず,「中庸尺度」の作成者に元の質問紙の意味を確認したうえで,日本語へ翻訳した。その際,所属研究室の教授および大学院生数名と不自然な日本語を訂正した。そして項目の順序をランダムにした上で,日本語検定N1を合格した中国人36名が,日本語に訳された項目を中国語へ逆翻訳を行った。逆翻訳の結果を集計し,元の意味を失わないように,再度,所属研究室の教授と大学院生数名と検討を行い,最終版とした。
実験参加者 2018年11月~2019年5月まで大学生および社会人213人に対して質問紙調査を実施した。有効データ184名(男性86名,女性98名,平均年齢±SD=21.79±6.89歳)を分析の対象とした。
結果と考察
構成概念妥当性 全ての項目が「中庸」という一つの構成概念に関する項目であるかを検討するために,因子数を1とした上で項目分析を実施した。この結果,項目10と11の項目弁別力は,それぞれ.085と.005と妥当性は低かった。なお,呉·林(2005)の結果では項目2と11の弁別力が低いことが示されていた。
収束妥当性 反複主因子法により,全15項目と,妥当性の低かった2つの項目を除いた13項目に対して,それぞれ50回のシミュレーションを行った結果,どちらの場合でも3因子構造であることが示された。
確認的因子分析 最尤法を使い,収束指標について検討したところ,15項目を用いたモデル(CFI=.828, TLI=.786, RMSEA=.087, SRMR=.076)よりも,13項目を用いたモデルの方が良い収束指標が得られた(CFI=.874, TLI=.841, RMSEA=.079, SRMR=.066)。なお,15項目を用いたモデルの下位尺度における各項目の因子負荷量は,多角的尺度(Multiple Perspective Thinking; MPT)ではQ01=.650,Q02=.426,Q03=.585,Q04=.644,Q05=.645,ハーモニー尺度(Harmony; HM)の因子負荷はQ06=.670,Q07=.697,Q08=.610, Q09=.388,Q10=.103,また全体的思考能力(Holistic Thinking; HT)の各項目の因子負荷はQ11=1.24,Q12=.533,Q13=.434,Q14=.480,Q15=.813であった。このことから見ると,項目10と11では適当ではないと考える。また,13項目を用いたモデルの下位尺度における各項目の因子負荷量は,多角的尺度(Multiple Perspective Thinking; MPT)ではQ01=.652,Q02=.426,Q03=.586,Q04=.642,Q05=.644,ハーモニー尺度(Harmony; HM)の因子負荷はQ06=.664,Q07=.702,Q08=.617, Q09=.379,また全体的思考能力(Holistic Thinking; HT)の各項目の因子負荷はQ12=.534,Q13=.438,Q14=.474,Q15=.809であった。因子負荷と収束指標から,13項目モデルの方が構造的により適切であるとことが示された。
信頼性 Cronbachのα係数を算出した結果をFigure 1 に示した。15項目を用いて算出したα係数より項目10と11を除外した13項目を用いたときのα係数の方が値が高かった。なお呉·林(2005)では,全15項目を用いた場合および各下位尺度において,項目2と11の弁別力が低く,日本語版とは異なるパターンを示していた。
結論 本研究は中庸尺度の日本語版を作成し,尺度の信頼性および妥当性の検討を行った。その結果,日本語版の尺度は呉·林(2005)と異なる因子構造を持つ一方で,一定の信頼性·妥当性が示された。呉·林(2005)と異なる因子構造が得られた原因は二つあると考える。一つ目は項目10と項目11は中国語の場合でも婉曲的な表現であるため,本意を失わず日本語に翻訳するとより曖昧になった可能性がある。二つ目は「中庸」のような哲学概念に対して異文化間で認識が違うことが考えられる。
今後の研究では,本研究の結果を土台とし,中庸に関する構成概念を測定する尺度をより精緻化していき,異文化間の要因も入れたより幅広い場面で使用可能な質問紙の作成が望まれる。

キーワード
中庸/意思決定/質問紙分析


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