発表

3D-014

存在論的恐怖が社会的支配志向性に及ぼす影響:
外集団受容 / 拒否情報への接触とワーキングメモリキャパシティの観点から

[責任発表者] 吉田 綾乃:1
1:東北福祉大学

目 的
 存在脅威管理理論(Terror management theory, TMT; Greenberg et al., 1986)は,人は実存的な死の脅威(存在論的恐怖)を文化的世界観や自尊心によって緩衝していると主張している。これまでに,存在論的恐怖が顕現化すると,文化的世界観を防衛するために,信念を共有している内集団成員への態度は肯定的に,共有していない外集団成員への態度は否定的になることが示されている(Greenberg, et al., 1990; Solomon, et al., 1990)。外集団成員への否定的な態度は偏見や差別と結びつく。一般に,偏見や差別は地位格差のある集団間で生じることが多い。集団間の平等または階層的な関係についての個人の志向性は,社会的支配志向性(Social Dominance Orientation:, SDO; Pratto et al., 1994)として概念化されている。SDOは,平等主義志向性と集団支配志向性の2因子仮説が提唱され,集団の地位などの社会的文脈によって変化することが明らかになっている(杉浦ら, 2014)。本研究では,存在論的恐怖が顕現化すると,文化的世界観を防衛するために集団支配志向性が強まると予測する。さらに,このような存在論的恐怖とSDOの関係性に,外集団による受容/拒否情報への接触と,ワーキングメモリキャパシティ(Working memory capacity, WMC)が影響を及ぼすと予測する。
 存在論的恐怖の顕現化により,文化的世界観の防衛動機が高まっている時,自文化が外集団から受容されているという情報に接することは(外集団受容条件),集団支配志向性の高まりを抑制することが予測される(仮説1)。しかしながら,このような存在論的恐怖による外集団に対する否定的効果を抑制するためには,接触した情報を操作する能力と,それを遂行するための認知資源(WMC)が必要であると考えられる。よって,仮説1の効果は,WMC低群よりも高群において認められると予測する(仮説2)。
方 法
分析対象者:118名(男性58名・女性60名,平均年齢19.42歳,SD = 1.15)手続き:2018年9月に青林(2011)が開発した集団用Operation Span Testを用いてWMCを測定した。2ヶ月後に質問紙実験を実施した。「感情が異なる様式の課題成績に及ぼす影響」に関する調査と教示した。存在論的恐怖条件では死に関して,統制条件では歯科不安について自由記述を求めた。PANAS(佐藤・安田, 2001)に回答を求めた(ネガティブ感情因子α= .855 ポジティブ感情因子α= .842)。次に,外集団による受容 / 拒否情報への接触を操作した。2つの記事を提示し,効果的な記事のタイトルを考えるように求めた。中立的記事(重さの単位変更)と外集団受容 / 拒否に関する記事のいずれかを提示した。外集団受容条件では「日本が外国人旅行者の渡航希望先1位」,拒否条件では「韓国による徴用工裁判」の記事を用いた。記事の提示順序はカウンターバランスをとった。続いて,杉浦ら(2014)が開発した社会的支配志向性尺度,22項目7件法(平等主義志向性α= .815 集団支配志向性α= .815)と,国民意識尺度日本語版(唐沢, 1994)に回答を求めた。最後に,ディブリーフィングならびにデータ使用の可否の確認を行った。
結 果
 本稿ではSDOに関する分析結果を報告する。平等主義志向性を従属変数とし,条件2(存在論的恐怖条件 / 統制条件)×情報接触2(外集団受容条件 / 拒否条件)×WMC 2(高群 / 低群)の3要因分散分析を行った。全て被験者間要因である。分析の結果,情報接触の主効果に有意差が認められた(F(1,117)= 3.63, p < .05, ηp2 = .03)。外集団拒否条件よりも,外集団受容条件において平等主義志向性得点が高かった(拒否条件M = 5.02, SD = 0.11受容条件M = 5.31, SD = 0.11)。集団支配志向性を従属変数とし,同様の分散分析を行った結果,条件×情報接触の2要因の交互作用に有意傾向が認められた(F(1,117)= 3.50, p < .06, ηp2 = .03)。下位検定の結果,存在論的恐怖条件において,外集団拒否条件よりも外集団受容条件において集団支配志向性得点が低かった(図1)。
考 察
 仮説1は支持されたが,仮説2は支持されなかった。存在論的恐怖が顕現化すると,人々は死の脅威を意識的・無意識に制御する。死について考えた直後は意識的な抑制が行われるが,一定時間経過後に死関連思考の接近可能性が高くなり,文化的世界観の防衛反応が生じることが報告されている(Arndt, et al., 1997)。WMCが意識的・無意識的な死関連思考の抑制と,その個人的・対人的効果にどのように関与しているのか,時間の影響を踏まえたより詳細な検討が必要である。
引用文献
Arndt, J., et al., (1997). Subliminal exposure to death-related stimuli increases defense of the cultural worldview. Psychological Science, 8(5), 379-385. ほか
【付記】本研究は科研費(基盤C:16K04266) の助成をうけた。

キーワード
存在脅威管理理論/ワーキングメモリキャパシティ/社会的支配志向性


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