発表

3C-010

満足化原理の現実妥当性について
アンケート調査を用いて

[責任発表者] 劉 放:1
1:早稲田大学

目 的
従来の意思決定に関する研究では,Simon(1955)が提唱した限定合理性の満足化原理が広く認められている。満足化原理によれば,意思決定者の満足化は個人の要求水準によって決められ,要求水準と満足化,目標値が一致していると考えられている。そして,行動をするにあたり,結果が目標値に達すると,行動を止めるとされている。
しかし,個人の合理性が限られてしまう状況下において,意思決定者は必ずしも満足化原理に従っておらず,個人の要求水準が目標値と一致しない場合がある。例えば, McClelland et al. (1953)の達成動機づけの研究において,達成動機が弱い人は目標値に達する前に行動を止めることが示されている。
そこで,本研究では,要求水準と目標値が一致しないものと考え,両者の関係について三つの仮説を立て,検討する。仮説1は,要求水準は目標値より低く,目標の実現まで行動を促すことができない (満足化原理に従わない)。仮説2は,満足化原理が述べるように,要求水準は満足化/目標値と一致し,目標を実現させるまで行動を促すことができる(満足か原理に従う)。仮説3は,要求水準は目標値より高く,目標より高いところまで行動を促すことができる(満足化原理に従わない)とした。このような仮説を検討するために,大学生を対象に個人のリスク選好に関する質問紙調査を実施した。

方 法
調査参加者 立命館大学大学生111名を対象とした。
調査時期 2018年6月であった。
質問紙 まず,問1において対象者の希望した老後資金の金額を聞いた。そして,希望した金額を達成するため,問2「株式を買うかどうか」,また,問2において「株式を買う」と回答した対象者に問3「どのタイミングで(株価がいくらになったら)株式を売るか」を尋ねた。
分析の概略 参加者が希望した老後資金をそれぞれの目標値とみなした。問1に基づき,株式を買う人をリスク愛好者とし,株式を買わない人をリスク回避者とした。リスク愛好者について,問2に基づき,1.目標値に達する前に株式を売却する人,2.目標値に達成次第,株式を売却する人,3.目標値を達成しても株式を売却しない人という三つのタイプに分類した。

結 果
111名の対象者の中で,分析対象になったリスク愛好者は 
86名であった。86名を三つのタイプに分類した結果をFigure1に示した。「株式を買う」を選んだ86人の対象者の中で,36%は目標値に達する前に,株式売却を選択した。45%は目標値に達し次第,株式売却を選び,残りの19%は目標値に達したとしても,株式を売却しないことを選んだ。つまり,36%の人は目標を達する前に行動を止め,19%の人は目標を達成しても,行動を止めない結果となった。

考 察
本研究の結果,リスク愛好者の55%は満足化原理に従わない選択をしており,不確実性下の意思決定では,意思決定者は常に満足化原理に従うわけではないことが示された。個人の要求水準は目標値に向けた行動を促す要因として,目標値と一致しない場合があると示唆された。要求が低ければ,目標を達成することができず,要求が高ければ,目標より高いものを目指すと考えられる。いずれの場合でも,満足化原理を違反する。ただし,満足化原理で説明できない場合は少数であり,大多数の人には適用できる。

謝 辞
本研究を進めるに当たり,修士時代の指導教官であった立命館大学経済学研究科杉田伸樹教授や立命館大学経済学研究科修士課程青木徹氏,早稲田大学文学学術院竹村和久教授,早稲田大学文学研究科博士後期課程村上始氏,川杉桂太氏をはじめ,多くの方からご支援とご指導を賜りました。心から感謝を申し上げます。

参考文献
McClelland, D.C., Atkinson, J. W., Clark, R. W., & Lowell, E. L (1953). The achievement motive. New York: Appleton-Century-Crofts.
Simon, H. A. (1955). A behavioral model of rational choice. The Quarterly Journal of Economics. Vol.69, No.1,99-118.
米川清(2013). 「限定合理性への謬見」,『熊本学園商学論集』17(2),pp.29-52.

キーワード
満足化原理/要求水準/意思決定


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