発表

3B-018

行為者の識別可能性が「巻き添え」を含む報復に与える影響

[責任発表者] 澤田 昂大:1
[連名発表者・登壇者] 五十嵐 祐:1
1:名古屋大学

問題と目的 報復は,不当な敵対的行為をはたらいた人物に対してのみ行われるべきであり,無実の他者に影響する「巻き添え」を含んだ報復は,報復の連鎖を拡大させるなど問題を悪化させうる (Axelrod, 1984; Pereira et al., 2015)。集合罰 (Pereira et al., 2015) や代理報復 (縄田・山口, 2011; Sjöström et al., 2018) など,巻き添えを含む報復を扱ったこれまでの研究は,報復対象を外集団およびその成員とすることを前提としており,集団間葛藤の文脈に限定されてきた。
 一方,敵対的行為の行為者に対する報復の欲求は,匿名性が担保された内集団成員間でも生じうる。こうした状況では行為者を識別する情報が秘匿されることで,「誰が自分に対して敵対的行為をはたらいたのかがわからない」といった状況が生まれる。この時,実際に敵対的行為をはたらいたのは一部の人物であっても,行為者を識別することが不可能なために,該当しうる人物全員が報復対象とみなされ,巻き添えを含む報復が行われてしまう可能性がある。
 そこで本研究では,行為者の識別可能性の有無が巻き添えを含む報復に与える影響について,探索的な検討を行った。

方法 大学生61名 (男性20名,女性41名; Mage = 20.16, SD = 1.25)が,同性の参加者3名を一組とした実験室実験に参加した。実験室内は3つに区切られ,3名の参加者は互いに直接顔を合わせることはなかった。なお,参加者が3名に満たない場合は実験協力者が実験に参加した。したがって,各セッションの実際の参加者は1~3名であった。
 参加者は,匿名条件 (n = 21)・非匿名条件 (n = 24)・統制条件 (n = 16) のいずれかに割り振られた。参加者は,ニックネームの決定と自己紹介文の作成(10分間)を行った後,他の2名の参加者の自己紹介文とニックネームを確認した。ただし,実際には全ての参加者に同一の文章が配布された。匿名条件と非匿名条件の参加者は,続いて他の参加者の自己紹介文に基づく印象評定を行った。その後,偽のフィードバックによって,他の2名から参加者に対してポジティブな評定とネガティブな評定が1つずつ与えられた。非匿名条件では評定者のニックネームが示されたが,匿名条件ではニックネームは示されず,2名のどちらが参加者にネガティブな評価を行ったのかを識別することが不可能となっていた。統制条件では,占いによって参加者だけがネガティブなフィードバックを受ける状況を設定した。
 その後,参加者は独裁者ゲームを模した分配課題に取り組んだ。参加者には300ポイント(実験後にポイント数に応じて景品と交換可能)が与えられ,自分および他の2名への分配額を10ポイント単位で決定した。他の2名への分配額は (300-自分への分配額) / 2 として計算され,2名に対して個別に分配額を設定することはできなかった。

結果と考察 ポアソン分布を仮定した一般化線形混合モデルによる分析の結果,匿名条件では非匿名条件よりも自分への分配額が多くなっていた (B = 0.338, p < .05)。また,匿名条件では総ポイントの半分となる150ポイントを自分に分配した参加者の割合 (26.3%) が,他の2条件と比べて高かった。非匿名条件では,参加者の多く (58.8%) が平等分配(3名それぞれに100ポイントを分配)を行っており,統制条件では平等分配に加えて,300ポイント全てを自分に分配する参加者もみられた (Figure 1)。
 本研究の結果は,行為者の識別ができない状況において,一部の他者から敵対的な行為を受けた個人が,巻き添えを含む報復を行いやすくなることを示している。一方で,総ポイント数の半分を自分に,残りを2名の他者に分配するというパターンが匿名条件下でのみ多くみられたことは,当該条件下における他の2名との関係性が,「自分」対「他の人々」という形式に変容した可能性を示唆している。この場合,150ポイントを自分に分配した参加者は,「仕返し」である報復が動機づけられたというよりも,報復対象の識別が不可能となることにより,本来無関係であるはずの他者2名に認知的な「まとまり」を見出し,その上で主観的に公正な分配 ,つまり「自分」と「他の人々」の間での平等分配を行った可能性が考えられる。また,集合罰は,集団実体性 (group entitativity) の高い人々の集まりに対して行使されやすい (Pereira & van Prooijen, 2018) ことから,匿名条件下で自分に150ポイント以上を分配した参加者にも,同様の認知プロセスがはたらいていた可能性がある。
 本研究の結果は,行為者が識別不可能となる状況が巻き添えを含む報復を促進することを示すとともに,その背後に対人認知の変容が存在している可能性を示すものである。今後は追試による知見の再現性の検証と,現象の背景にある心理メカニズムの精緻化が課題となる。

キーワード
報復/匿名性/社会的公正


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