発表

3B-011

現実のカテゴリを用いた最小条件集団パラダイムと内集団ひいきの検討

[責任発表者] 赤須 大典:1
1:久留米大学比較文化研究所

目的
最小条件集団パラダイム(以下MGP)(Tajfel et al., 1971)は,自他の集団を比較して,自分が所属する内集団に外集団より高い評価を下し,好ましく認知する内集団ひいきを実証した古典的な実験である。内集団ひいきは,社会的アイデンティティ(以下SI)に関する代表的な行動とされる。最小条件集団という恣意的な基準で分けられ,集団そのものや他の成員との相互作用のない最小限度の集団カテゴリ性の認識と比較だけで「自分は集団の一員である」というSIが表れる(Tajfel & Turner, 1979)。このMGPとSIとの関連に対し,報酬分配の観点から,内集団成員との“一般交換”の期待を示したものでSIを示すものではない(e.g. 神・山岸, 1997; Yamagishi & Mifune, 2007)といった批判が提出されている。本研究では,内集団ひいきがSIの一要素であることを確認するため,最小条件集団に近い条件の現実のカテゴリを使用し,報酬分配を用いない形のMGP的実験で,SIを基とする内集団ひいきが示されるかの検討を行った。
方法
調査対象者:集団条件192名,個人条件60名。いずれも大学の学部生。
集団:対象となるカテゴリは2種類の菓子Aと菓子B。両製品は同価格の姉妹品で「どちらが人気か?」で度々論争が行われており,対立軸が明確だが対立による現実的な利益相反はないカテゴリ同士。調査対象者間にも接触はなく,最小条件的要件を備えた現実のカテゴリ。
手続き:調査対象者に対して菓子Aと菓子Bの「どちらが人気か」論争について説明した後,どちらが好きかを回答させカテゴリ(A/B)に分けた。選択した菓子がもう一方の菓子と比べてどの程度好きかを好意度として6割,8割,10割の3段階で評価させ,カテゴリに対する同一視の指標とした。内集団ひいきの程度を測定するために「選択した菓子が世間でどのくらい支持されていると思うか?」を主観的支持率として0%~100%で判断させた(集団条件)。
また,内集団ひいきの自己評価に与える影響を調べるために,12個のポジティブな意味の特性形容詞(林,2001)に6件法で回答させた(1:まったくあてはまらない~6:本当によくあてはまる)。対照調査として60人の調査対象者に,集団条件での調査を行わずに自己評価のみ行わせた(個人条件)。
結果
調査対象者の選好は菓子A127名(66%),菓子Bは65名(34%)。全調査対象者の主観的好意度はAが平均64.43%,標準偏差13.06%,Bが平均51.12%,標準偏差16.66%となり,2つの菓子ともに主観的支持率が50%を超えたため,自分の選んだ菓子のカテゴリをひいきしていると言える。また好意度毎に主観的支持率と50%をt検定で比較した(Table 1)。菓子Aでは全ての好意度で,主観的支持率が50%を超え内集団ひいきが起きていることが示された。菓子Bは6割では主観的支持率が50%より低い傾向が見られたが,10割では主観的支持率は50%を有意に超えており,内集団ひいきが見られた。また菓子A,Bでそれぞれ好意度間の主観的支持率を比較したところA(F(2,124)=9.80, p<.01, η2=.02)となり,好意度10割の主観的支持率は6割よりも有意に高く,B(F(2,62)=10.35, p<.01, η2=.06)では好意度が上がるほど主観的支持率も有意に上昇した。自己評価について菓子AとBの各好意度で対象者の自己評価と個人条件の自己評価をt検定で比較した(Table 2)。菓子Aでは好意度10割の,菓子Bでは6割と10割の対象者の自己評価が個人条件の自己評価より高くなっていた。
考察
本研究では「菓子A(B)が,それぞれ世間でどのくらい支持されていると思うか?」という,報酬分配ではない指標でMGPを検討した。その結果,やはりMGPに含まれる内外集団の対比で内集団ひいきが確認できたと考えられる。カテゴリへの好意度はSIにも関わるカテゴリに対する同一視の一側面だが,好意度が高い対象者では内集団ひいきも高くなった。さらにSIの動機的側面には自己評価の高揚があるが,カテゴリに対して好意度の高い成員は自己評価も高い。この結果はSIに関連する現象が内集団ひいきの程度を強めていると考えられ,この点でもMGPの内集団ひいきがSIの一側面であると言えるだろう。

キーワード
最小条件集団パラダイム/内集団ひいき/主観的支持率


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