発表

3B-010

ナッジと意識的自覚

[責任発表者] 山田 歩:1
1:滋賀県立大学

目的
 人間の意思決定プロセスが解明されるに従い,認知バイアスを利用して選択行動をコントロールする「ナッジ」と呼ばれる手法が社会に広まっている(Thaler & Sunstein, 2008)。ナッジが個人や社会にもたらす恩恵が強調される一方で,個人の自主性や自律を軽視したり脅かしたりする負の側面についての検証・論考が立ち遅れている。
 たとえば,臓器移植については,Opt-in型の選択形式より,Opt-out型の選択形式において臓器提供が促進される「デフォルト」の効果が確認されている(Johnson & Goldstein, 2003)。提供臓器数を増やすことだけを考えた場合,Opt-out型の選択形式を導入することが合目的的だが,意思決定者がナッジによる働きかけを自覚できているのかそうでないかによって,ナッジの社会的正当性や決定者自身の反応も大きく変わるだろう。
 以上を背景に,臓器提供の意思表示にデフォルトがもたらす影響力について意思決定者が抱く自覚を調べた。
方法
参加者 大学生101名。
手続き 調査用紙を用いて,以下の項目をたずねた。
1.臓器提供の意思:臓器提供意思表示カードを示し,「心臓」「肺」「肝臓」「腎臓」「膵臓」「小腸」「眼球」の7つの部位についての提供意思をたずねた。このさい,デフォルトが操作された(Opt-out条件とOpt-in条件)。
2.選択形式の認知:意思表示カードの選択形式が「回答者に臓器を提供するように迫っているか」についての「誘導の認知(2項目平均;1~5)」,と選択形式が「回答者の臓器提供についての意思を尊重しているか」についての「尊重の認知(2項目平均;1~5)」をたずねた。
3.影響力の認知:意思表示カードの選択形式によって臓器の「提供数が増えた」か「影響を受けなかった」か「提供数が減った」かをたずねた。
結果と考察
臓器提供数 Opt-out条件の参加者は,Opt-in条件の参加者と比べ,より多くの臓器を提供する意思表示をした(F(1, 99)= 25.03, p < .01;Fig1[全体])。
誘導の認知 Opt-out条件の参加者とOpt-in条件の参加者が認知する誘導の程度には違いが見られなかった(F(1, 99) = 1.06, ns, Fig2)。Opt-out条件で臓器提供数が顕著に増加していたことを考慮に入れると,少なくともOpt-out条件の参加者はデフォルトの影響力を十分に認知することなく,意思決定を行っていたと考えられる。
尊重の認知 Opt-out条件の参加者のほうが,Opt-in条件の参加者と比べて,自らに与えられたカードの意思表示形式がより自身の「意思を尊重している」ように認知する傾向があった(F(1, 99) = 3.62, p = .06;Fig2)。Opt-out型の意思決定で認められる「離脱の選択」は,Opt-in型の意思決定で認められる「加入の選択」よりも,意思決定者に強い自由を知覚させる可能性が考えられる。
影響力の認知 参加者の大多数は,選択形式が自身の判断に影響を与えていないと認知していた(Table1)。また,一定度のOpt-in条件の参加者は臓器提供数が「増えた」と考えており,正確に自身の決定プロセスを自覚してない可能性が考えられる。
臓器提供数×影響力の認知 選択形式から「影響を受けていない」と考えていても,Opt-out条件とOpt-in条件の臓器提供数には有意な差が確認された(F(1, 72) = 24.24, p < .001, Fig1[影響なし])。また,「増えた」と考えていても,両条件の臓器提供数には有意な差が確認された(F(1, 19) = 5.37, p < .05, Fig1[増えた])。
全体 臓器提供の意思をたずねるコミュニケーション・ツール上で,人びとはデフォルトから受ける影響力を自覚しないまま向き合い,反応することが示唆される。

キーワード
ナッジ/デフォルト/意識的自覚


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