発表

3B-009

死の顕現化が原発の管理者に対する信頼感に及ぼす影響

[責任発表者] 辻川 典文:1
1:神戸親和女子大学

問題
 本研究では,死の顕現化が原発の管理者に対する信頼感にどのような影響を及ぼすのかを明らかにする。リスクを伴う科学技術の受容には,リスク管理者への信頼感が重要となる (中谷内, 2011など)。原発の再稼働をすすめる政府や電力会社は信頼の回復に努めてはいるが,信頼を得られているとは言い難い。信頼を得られていない背景には,信頼を高めるための取り組みが不十分であることがあげられるが,原発に対して人々が持つ「死」のイメージも影響しているのではないかと考えられる。
 存在脅威管理理論によると,人は死など脅威を認識すると自尊心を高めようとしたり,自身の文化的世界観の正しさを確認しようとしたりするとしている (Solomon et al., 1991)。そのため,脅威を認識すると,内集団バイアスが起こりやすく,外集団への敵意や偏見や差別が強まりやすい (脇本,2012)。
 原発は,他の科学技術と比べて「恐ろしさ」や「未知性」が高い事象である (Slovic, 1987)。さらに日本の場合,原発事故と原爆による被害を経験した国でもある。そのため,原発に対する死のイメージは強い可能性が考えられる。原発の管理運営は外部依存型であるため,多くの人々にとって政府や電力会社は外集団となる。そのため,政府や電力会社への不信感の強さは,彼らの取り組みの不十分さだけでなく,原発の死のイメージが関係している可能性がある。
 本研究では,原発について考える条件(原発条件),死について考える条件(Mortality Salience, MS条件),余暇について考える条件(統制条件)を設定した。そして,原発条件やMS条件は統制条件と比較して,死への接近可能性が高いかどうか,また原発の管理機関への信頼が低くなるかどうかを明らかにする。

方法
調査時期と参加者 2018年2月中旬に調査会社のモニターを対象としたWeb調査を実施した。調査参加者は,20代~50代の360名(男性180名,女性180名)であった。
手続き 調査参加者を,原発条件(120名)と,MS条件(120名),統制条件(120名)のいずれかにランダムに割り当てた。各条件において,それぞれの条件に沿ったアンケートに回答したのち,死のイメージの強さ,死への接近可能性を測定するための単語完成課題を行った(Arndt et al., 1989)。単語完成課題は一文字空欄があり,そこに文字を当てはめることで単語を完成させる課題であった。全部で12題あり,そのうち6題は死に関する課題であった(例:そう○き→そうしき or そうじき)。その後,原発の管理者に対する信頼(行政に対する信頼,電力会社に対する信頼,科学者に対する信頼),原発に対する態度(原発利用の賛否,再稼働の賛否,怒り)などを尋ねた。

結果
死の思考の接近可能性 条件間での死の思考の接近可能性を分析するため,単語完成課題において死と関連する単語がいくつ上がったかを分析した。結果,条件間で差はみられなかった(原発条件M=1.04, MS条件M=1.28, 統制条件M=1.12; F(2,357)=1.40, n.s, 偏η2=.008.)。一方で,男性の方が女性よりも死に関する単語を生成していた(男性M=1.31,女性M=0.98; F(1, 358)=8.21, p<.01, 偏η2=.022)。ただし,差はみられたものの生成数そのものは少なかった。
原発の管理者に対する信頼感 性別によって,単語完成課題に差がみられたため,性別の要因を加えて分析を行った。条件×性別の分散分析の結果,電力会社に対する信頼と行政に対する信頼に条件と性別の交互作用が有意となった(電力会社に対する信頼F(2, 354)=3.39, p<.05, 偏η2=.019,行政に対する信頼F(2, 354)=2.40, p<.1, 偏η2=.013,図)。行政,電力会社に対する信頼は,男性において統制条件よりも原発条件において低くなっていた。一方,女性では条件間に違いはみられなかった。また,統制条件では男性の方が女性よりも信頼感は高かった。
原発に対する態度 原発に対する態度(原発利用の賛否,再稼働の賛否,怒り)に対して,条件×性別の分散分析を行った。主効果,交互作用ともに有意な差は確認されなかった。

考察
 原発について考えることが,死の顕現化につながり,管理者に対する信頼を低下させると考えた。しかしながら,単語完成課題において条件間で差がみられなかったことや,死に関連する単語の生成数が少なかったことから,本実験において適切な操作や測定が行われていたとは判断できない。そのため,男性において原発条件で信頼が低下した原因として死の顕現化の影響をあげることは難しい。原発について事前に考えることで,現状に対する問題意識や対策の不十分さの認識が強まり,管理者に対する信頼が低下したと考えられる。

キーワード
存在脅威管理理論/原子力発電/信頼


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