発表

3B-008

親のしつけと虐待に関する認識のありかた
ー日本と中国の家庭文化を比較してー

[責任発表者] 劉 妮:1
1:龍谷大学

目的 日本と中国との家庭文化の比較を通して,しつけ,あるいは虐待に関する認識のあり方を検討する。
調査方法 対象:日本のAとB大学の大学生468名,中国のC大学の大学生437名。時期:日本人大学生への調査は2014年1月~2014年4月,中国では2014年3月~2014年5月に実施された。方法:講義時間中に調査者が用紙を配布し,対象者にはその場で自由記述をすることを求め,回収された。内容:「しつけと虐待の違いについて自由に述べてください」。 倫理配慮:調査内容が講義の一環ではないことを予め伝え,匿名で実施された。述べたくない場合,対象者の意思を尊重する。
結果 自由記述の内容を定性的コーティングという質的分析方法に基づき「しつけ・虐待を受ける側」「しつけ・虐待をする側」「体罰」「その他」の4つの項目を分類し検討を行った。
一しつけ・虐待を受ける側における2国間の共通点と相違点
 1共通点 しつけに関して“愛情を感じる”項目内容である一方,虐待においては “愛情を感じられない”などの内容である。
 2相違点 しつけ:日本では親が子どもが納得できるようにしつけをする教育の仕方である一方,中国では親が子どもの人生の道を導きながら,子どもにどのように成長していきたいかなどの自由さを与えるように,子どもを培うしつけである。 虐待:日本人大学生は,親の養育態度や言動の不適切さで納得できないと感じられた場合または子どものためにならないものと感じられた場合,虐待に繋がるという考え方である。一方,中国では家族への思いを持たず,家族の関係性が悪化することに注目される。
二しつけ・虐待をする側における2国間の共通点と相違点
 1共通点 しつけ:両国の大学生は,親は子どもを教育し,生活習慣や社会マナーを身につけるように教え,子どもを指導する立場であり,親が愛情を込めて合理的にしつけをすることが要求されているという認識を持っている。虐待:(1)子育てをする基本的なスタンスを持たないこと;(2)子の立場ではなく,親が自己満足できるような行動を取ること;(3)親が不合理で度を超え,しつけのやり方に問題が生じること,の三つの特徴がみられる。
 2相違点 しつけ:日本では親と子の関係に焦点をおかれたが,中国では親子関係以外,家族全体の関係性にも影響があると言及される。虐待:日本では子どもと直接関わりの中で単なる暴力暴言を使用する場合,虐待になるという考え以外に,社会的な自我を強調する内容もある。中国では “夫婦関係が悪い,家庭内不和による悪い影響”などの内容である。
三体罰について
 1共通点 体罰の許容:両国において大学生は愛情があれば適度な体罰が許されるという考え方である。体罰を認めない:両国では 大学生は“暴力”自体による悪影響に対する共通認識を持っていると考えられる。
 2相違点 体罰許容:日本では “叩くなどの体罰的な行為は悪くはない”,“親子関係が成立し,愛情があれば”などの内容である。一方,中国では“適当な体罰”である。体罰を認めない:日本では“しつけと虐待を混乱させる”である一方,中国では“体罰によるトラウマが残される”ところに焦点が当てられる。
四その他について
 両国において共通点が見られなかった。
 相違点 日本:親子の信頼関係や親子それぞれが感じた気持ちに目が向けられる。また社会という世間の目が気になり,社会的自我を強調するという特徴が見られる。中国:親が病態の心理状態ではなく,健康な心理状態で,ある程度の教育レベルや素質を持ち,血の繋がっている親子の場合,虐待が生じる可能性は低くなると考えられている。
考察 しつけを受ける側・する側における2国間の共通点から,両国では親が子どもを大切にして育てる文化が共通していることが見られる。また,家族構成や親子関係の変化により,家庭におけるしつけの基本的な考え方が変わったことが窺える。虐待に関する共通点から,両国の大学生は心的外傷が子どもへ精神的なダメージを与える共通認識を持っていることが推測される。しつけを受ける側・する側における2国間の相違点から,日本では家庭で受けているしつけが古来に伝承されたものだけでなく,欧米文化にある個人主義,合理的な部分も含まれていたと考えられる。中国ではしつけの背景に,儒家思想で親子関係の重要さが強調され,親が子どもへの責任が肉親の情として表している。虐待に関する相違点から,日本では親のしつけのあり方だけではなく,“個人”としての子どもの受け入れ方が強調されていることが考えられる。一方,中国文化で家族を大事にするのは,同じ血縁で繋がっている家族関係である意識が高いと思われる。体罰の共通点について,両国において儒教的思想(子どもが体罰して教育する必要がある)に影響されていると推測される。相違点から,日本人大学生は体罰という行為自体を許容するというより,親の愛情を感じ,親子関係が存在していることを前提としている一方,中国人大学生の“適当な体罰”という考えは中国文化で伝承されている“中庸”に相応しい,儒家文化に影響されたと考えられる。その他についての相違点から,日本人大学生が親子の関係性を強調する背景には,伝統的なしつけの影響を受けている可能性があり,また世間の目を意識している働きは日本の文化に関係していると考えられる。一方,中国において,儒家文化による影響で子どもを叩くことは当たり前のように考えられている家庭文化が存在していることと,虐待への認識が薄いことと関係しているかもしれない。
引用文献 
 喬東平(2012)虐待儿童:全球性问题的中国式诠释 社会科学文献出版社
 森三樹三郎(1988)中国文化と日本文化 人文書院

キーワード
親のしつけ/虐待/家庭文化


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