発表

3B-006

対人依存欲求と孤独回避傾向が社会問題に対する判断に及ぼす影響

[責任発表者] 林 幹也:1
1:明星大学

目的
 我々の社会には,社会的事象の原因や,その解決策についての,比較的妥当性の低い社会的主張(命題)が散見される。それらはたとえば,「競争をもっと促進すれば日本経済は回復する」とか,「少子化は伝統的家族観の喪失によって起きた」などといったものである(Table 1)。これらの命題は,説明力と適用可能範囲が限定されているため,妥当性に乏しいと言えるであろう。人々がより効果的な政策を選択していくためには,こういった様々な命題にどの程度の妥当性があるかを的確に評価する必要がある。
 本研究は,こういった社会的命題の妥当性を的確に評価する能力は,個人の対人関係のあり方と密接に関係していると考える。人は集団を作り,言語を通じて他者の意見や判断を知ることができる。となれば,日常の様々な判断に関して,常に周囲の他者の判断に依存している人々は,これらの社会的事象の妥当性について直接的かつ自発的に思考し評価することが苦手であろう。これを検証するため,本研究は,対人依存欲求および孤独回避傾向の強さを測定し,これらが,社会的事象の原因や解決策についての判断能力との間に負の相関を示すかを調査によって検討した。
方法
調査対象者 マクロミル社のモニター合計416名が,各自の端末を用いて個別に調査に回答した。
材料 孤独回避傾向を測定するために,海野・三浦 (2013) のひとりで過ごすことに関する感情・評価尺度18項目(「ひとりで過ごしていると不安になる」など),対人依存欲求を測定するために竹澤・小玉 (2004) の対人依存欲求尺度20項目,さらには社会問題に対する判断能力を測定するために,林・井出野・竹村 (2017) による命題差別化課題20項目 (Table 1)を使用した。
結果
 対象者ごとに,命題差別化課題の高妥当性項目10項目に対する評定得点平均値から,低妥当性項目10項目に対する評定得点平均値を減じ,この値を命題差別化得点とした。対象者全員の命題差別化得点平均値(M = 1.26, SD = .89)を0と比較するt検定を行ったところ,平均値は0よりも有意に大であることが明らかとなった(t(415) = 29.07, p<.001, d = 1.42)。次に変数間の相関関係を明らかにするために,孤独回避傾向,対人依存欲求尺度の下位尺度である情緒的依存欲求と道具的依存欲求,および命題差別化得点の間の相関係数を算出した(Table 2)。さらに,命題差別化得点を他の3尺度得点によって予測する重回帰分析を行った。その結果,孤独回避傾向と情緒的依存欲求は命題差別化得点に対して有意な負の影響を示したものの,道具的依存欲求は有意な正の影響を示した。
考察
 孤独回避傾向は本研究の予測どおり命題差別化得点に対して負の影響力を示したことから,孤独を避ける,すなわち他者と群れ合おうとする傾向を強く持つ人々は,単独では社会問題に対する判断に劣ることが示された。
 これに対して,情緒的依存欲求と道具的依存欲求は,互いに強く相関するにもかかわらず(r (414) = .74, p<.001),命題差別化得点に対して互いに逆の影響力を示した。道具的依存欲求とは,他者からの具体的かつ道具的反応によって満たされる欲求であり,これに対して情緒的依存欲求とは,他者からの抽象的かつ心理的反応によって満たされる欲求である。この結果は,孤独を好み,他者を遠ざける人々が社会的判断に優れるというわけではなく,具体的必要に応じて他者の支援を要求するという合理的な対人関係パターンを求めることが,優れた社会的判断と関係していることを示していると考えられる。

キーワード
批判的思考/対人関係/社会的判断


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