発表

3A-020

対応に苦慮する保護者の特徴 1
~保育士が捉えた親の言動~

[責任発表者] 井上 果子:1
[連名発表者・登壇者] 田村 和子:1
1:横浜国立大学


【問題と目的】
 児童福祉施設最低基準第35条の規定に基づき定められた「保育所保育指針」では,親機能を果たせない保護者への対応が必要であることが記載されており,保護者への心理的支援・ソーシャルワーカー的な対応を,保育士が業務の中で行うことが求めらている。しかし,こういった保護者の中には,保育士との心理的距離が近くなると「保護者に寄り添う」従来の指針に従う関わり方が心理的葛藤を呼び起こし,園や保育士への激しい怒りと依存につながる場合がある(井上ら,2017)。その結果,そういった保護者を親にもつ園児への保育士の健全な関わりが制限されたり,阻害される場合がある。この状況を少しでも改善するために,親機能を果たせない保護者を見抜くノウハウや,そういった保護者をもつ園児の特徴を明らかにし,客観的な評価基準の開発につなげていくことが望まれる。
 上記の課題を達成するために,保育士を対象とした質問紙調査・面接調査に基づき,「対応に苦慮する保護者を保育士が評定するチェックリスト」が作成された(井上ら,2017)。本研究ではこのチェックリストに基づいて「対応に苦慮する保護者の特徴」を明らかにしていくことを目的とする。
【方法】
質問紙の作成:井上・清水他(2017)をもとに,「対応に苦慮する保護者エピソード」33項目,自由回答1項目から構成される質問群を作成した。33項目については「1.なかった」〜「4.しばしばあった」の4件法で回答を求めた。
質問紙調査実施方法:神奈川県A市公立保育園の各園長に質問紙調査の主旨を口頭・書面にて説明し,質問紙調査実施の可否と回答可能な場合の保育士の人数を尋ねた。本研究では保育園を利用する保護者と園児に関する調査項目が中心であり,また,保護者への対応に苦慮した経験に関する調査項目があるため,保護者への対応に苦慮した経験があると園長から回答が得られた園のみに調査を依頼し,5年以上の保育経験を持つ保育士に対象を絞り人数を尋ねた。調査実施に協力可能と回答を得られた園宛に,調査説明書・質問紙・返信用の封筒を調査対象となる保育士の人数分送付した。調査説明書には,回答は自由意志に基づき行われること,回答を拒否しても不利益を被ることはないこと,特定の個人を特定するものではないことが明記されていた。回答は調査に同意した保育士により無記名で行われ,同封の封筒で返送された。依頼者数600名,返送回収数は414通(回収率69.0%)であった。
【結果と考察】
回答者の属性:男性27名,女性386名,不明1名。41〜55歳までの保育士が57.4%を占め,平均経験年数は21.7年であった。
因子分析の結果:各質問群からフロア効果・天井効果が認められた項目を除外し,因子分析を行った。主因子法・プロ

マックス回転により3因子構造を採用することとした(表1)。フロア効果が認められた質問項目は「他の保護者や子どもの個人情報を聞き出そうとした」「園に対する批判的な内容を,あたかも事実のように言いふらしたり,ラインなどで他の保護者に流したりしていた」などであった。天井効果が認められた項目は「園のルールを守らなかった」「園児の持ち物が揃わなかった」であった。フロア効果が認められた項目には反社会的な内容が含まれていた。本研究における尺度構成には含めなかったが,留意すべきエピソードであることが示唆される。
保護者の特性:第一因子は園・行政・他の利用者から不当な取り扱いを受けたという被害的怒りや抗議行動から構成され,第二因子は自身の子どもへの否定的対応や関心の低さを示し,第三因子は規範を遵守しようという意識の乏しさを示すと解釈した。そこで各因子を「被害的怒り」「否定的養育態度」「規範意識の低さ」と命名した。
因子間相関:中程度の相関を示した。対応に苦慮する保護者に対する全体的な保育士のイメージが反映されたと考えられる。
【引用・参考文献】
井上・清水他 2017 対応に苦慮する保護者を保育士が評定するチェックリストの作成の試み 横浜国立大学大学院教育学研究科教育相談・支援総合センター研究論集第17号
厚生労働省雇用均等・児童家庭局保育課 2017 平成30年度保育所保育指針 厚生労働省サイト
【謝辞】本研究は平成30年度横浜国立大学教育学部後援会研究助成金の助成ならびに,2019年度精神分析武田こころの健康財団の助成を受けた。

キーワード
対応に苦慮する保護者/保育士


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