発表

3A-016

児童期の自己愛傾向と自尊心が学業達成に及ぼす影響の国際調査

[責任発表者] 加藤 仁:1
[連名発表者・登壇者] 寺嶌 裕登:2
1:北陸学院大学, 2:名古屋大学

問題と目的
 児童期の学業達成における一つの要因として「競争と協同」の意識がある。国際学力調査を見ても,他者と比較し切磋琢磨する競争意識を強くもつ国が上位にランクインする一方で,周囲のサポートを引き出し効率よく学業を進める協同意識をもつ国も上位にランクインしている(e.g., OECD, 2016)。こうした学業パフォーマンスに影響を与える競争と協同に関連する個人差が存在する可能性が指摘されている一方で(e.g., Twenge & Campbell, 2009),いかなる個人差が競争と協同を予測するのか,そして競争と協同のいずれが個人のパフォーマンスを高めるかについての議論は十分でない。
 本研究では,個人差としての心理傾向が学業達成を予測するプロセスを競争と協同に対する志向性(競争意識・協同意識)が媒介するというモデルを立て,心理傾向および競争・協同意識と学業達成との関連を検証する。具体的には,社会関係の形成・維持に関連する個人差である自己愛傾向と自尊心をそれぞれ競争と協同を予測する心理傾向として位置づけ,児童期の心理傾向が競争・協同意識を通じて学業達成(高等教育機関への進学)に及ぼす影響について国際調査データを用いて検討する。
 なお,学業達成に影響を及ぼすことが予測される個人属性(年齢・性別・年収),児童期の家庭環境,学習状況・行動,社会関係については統計的に統制することで,児童期の心理傾向および競争・協同意識の効果を明確にする。
方法
調査参加者
 2019年5-6月,クラウドソーシングサービス(Figure Eight)に登録している18歳以上のワーカー362名(男性259名,女性103名,平均年齢30.44歳,SD = 7.36歳)がオンライン調査に参加した。
質問紙構成
 質問紙では,(a) 個人属性,(b) 自己愛傾向(Ames et al., 2006; 16項目,2件法),(c) 自尊心(Rosenberg, 1965; 10項目,4件法),(d) Big five(Gosling et al., 2003; 10項目,7件法),(e) 社会的価値志向性(Murphy et al., 2011; 15項目,スライダー法),(f) 社会的ネットワーク(友人数),(g) 自律的学習動機(西村他,2011; 8項目抜粋,4件法),(h) 学業コンピテンス(桜井,1992; 5項目抜粋,4件法),(i) 学習方略(梅本,2013; 4項目抜粋,4件法),(j) 家庭での学習時間(1日あたりの分数/平日・休日),(k) 家庭教育資源(折口,2008; 3項目,7件法),(l) 親の学習支援行動(折口,2008; 3項目,7件法)について,「(a) 個人属性」以外は児童期時点を想起してもらい回答を求めた。
 なお,個人属性のうち教育歴は最終学歴が高等教育以上か否かで二値データ化し学業達成の指標として用いた。社会的価値志向性については,資源分配の選好のパターンから利他性―利己性の軸をそれぞれ「協同意識」および「競争意識」と解釈し指標化した。
結果と考察
 個人の心理傾向である自己愛傾向および自尊心の高さが競争・協同意識および学業達成と関連しているかを分析するために,サンプル全体で偏相関分析を行った。その際,心理傾向および競争・協同意識と学業達成との関連を詳細に検討するために,年齢,性別,年収,友人数,家庭環境,社会関係,学習状況・行動は統計的に統制した。
 その結果(Table 1),自尊心と協同意識,自己愛傾向と競争意識が正の相関関係を示すこと,自尊心は学業達成と正の相関関係を示す傾向があることが明らかとなった。競争・協同意識と学業達成との間に直接的な相関関係はみられなかったものの,自尊心が高いほど協同意識が高く,学業達成しやすい傾向がみられた。以上より,児童期の自尊心の高さは他者との協調関係のみならず,その後の高等教育機関への進学という学業達成の側面においても重要であることが示唆された。

 なお,本研究の実施については第一著者の所属機関(滋賀文教短期大学,2018年当時)の研究倫理審査委員会にて承認を得ている。また,本研究は公益財団法人発達科学研究教育センター(加藤,2018)の助成を受けて行われたものである。

キーワード
自己愛傾向/自尊心/学業達成


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