発表

3A-012

聴き手の表情が発話者の心理に及ぼす影響 ?アジア人留学生を対象に?

[責任発表者] 森下 朝日:1
1:なし

目的
 本研究は,対話において聴き手の表情が話し手の心理や発話意欲に与える影響を検討する継続的研究の一報である。これまでは日本人学生を対象に,性別やアイコンタクト量を条件に加えつつ検討を重ねてきたが,今回は,日本に留学中のアジア人学生を対象に,森下(2012)の方法に準拠した対話実験を実施した。

方法
対象 日本の大学で傾聴および自己開示について事前に講義を受けていたアジア人留学生54名(中国人男性10名;女性10名;平均年齢 28.70(3.51),ベトナム人男性15名;女性5名:平均年齢 27.80(4.72), ネパール人男性10名;女性4名;平均年齢 26.8(1.85),)。
対話設定 同国出身者をパートナーとして2人1組になり,対面して着席した。両者は挨拶の後,話し手と聴き手に分けられた。話し手は聴き手に対し,最近感じた自身の感情体験の報告を行った。聴き手はその報告を,設定された表情表出を伴って傾聴した。対話が終了すると,話し手は質問紙への回答を行った。続けて,話し手と聴き手が役割を交替し,聴き手の表情設定を更新した上で,同方法の対話を行った。以上を1ターンとし,のべ3ターンの対話が行われた。なお,1回の対話に要した時間は8分間程度で,ターン毎にパートナーは入れ替わった。また,対話は話し手および聴き手の母国語で行われた。

対話条件 対話条件は以下の通りであった。
a. 話し手の報告する体験(2条件)
快体験報告群:話し手は,快感情を感じた最近の体験について報告した。
不快体験報告群:話し手は,不快感情を感じた最近の体験について報告した。
b. 聴き手の表情(3条件)
微笑群:常に微笑(smile)を浮かべながら傾聴した。
同調群:話し手の表情を模倣(conform)しながら傾聴した。
無表情群:常に無表情(no expression or reaction)で傾聴した。

質問紙 対話終了後,話し手は質問紙への回答を行なった。質問項目は,話しやすさ(発話意欲を喚起された度合),受容度(聴き手が話を受けとめてくれたと感じられた度合),自己開示度(話し手が自身の気持ちをありのまま開示できたと感じた度合),好感度(聴き手に対する好感の度合)の4項目(1:非常に低い~5:非常に高いで評定)で構成された。1回の回答に要した時間は2分程度であった。

結果と考察
 4項目に対する回答の平均値をtable1~3に示す。分散分析の結果,4つの質問項目すべてに表情の主効果がみられた(話しやすさ: p<.001, 受容度: p<.05, 開示度: p<.05, 好感度: p<.05)。無表情群は他の2群に比べ,話しやすさが平均値を大きく下回っており,受容度や開示度,好感度も軒並み低い評定値であることから,聴き手が無表情で対応すると話し手は発話意欲を著しく削がれ,表面的な対話に終わり,かつ相手の印象を悪くする傾向が示唆された。この傾向は快・不快どちらの体験報告時にもみられたが,ベトナム人は特に,快体験報告時に無表情で対応されると話し辛く感じるようであった。これとは逆に,最も話しやすかったと評定されたのは同調群で,快・不快どちらの体験報告時でも顕著であった。話し手が大きく感情表出すれば聴き手もそれと同様の感情表出を行うわけであるから,話し手は自分の思いに強く同意してくれたと感じ,より発話意欲が増すという傾向が示唆された。ただし,それが必ずしも受容度や開示度,好感度を伴っていない点が,日本人学生と相違している。森下(2011)では,日本人は表情を模倣されることで聴き手に受容してもらっていると強く感じ,それが話しやすさや好感度に繋がっていく傾向が見出されたが,本研究においては,中国,ベトナム,ネパール共にその傾向は顕著でなかった。さらに日本人との差を示す点として上げられるのが,不快体験報告時における微笑群への重要度と開示度の低さである。日本人は不快体験を話す際,相手が微笑を浮かべていても悪意的に解釈しない傾向があり,ネパール人にもその傾向がみられたが,中国人およびベトナム人においては,こうした状況下での微笑は不謹慎かつ侮蔑的と映る可能性が示唆された。この点は,文化的背景も関わっているのではないかと推察される。

展望
 本研究では,対話に使用する母国語の関係上,同国出身者同士のみの対話設定となったが,これを足掛かりとして,他国出身者同士の対話における交互作用や,性差についてもさらなる検討を加えていきたい。

キーワード
傾聴/表情


詳細検索