発表

3A-011

大学生における食生活指針への関心・実行状況と食行動異常傾向

[責任発表者] 白石 智子:1
[連名発表者・登壇者] 大森 玲子#:1, 宮代 こずゑ:1, 石川 由美子#:1
1:宇都宮大学

【はじめに】
食品産業の発展など,社会経済的環境の変化は,人々の食生活を大きく変化させた(松本・井村, 2000)。そのような変化を通じて生じてきた食生活にかかわる諸問題(栄養バランスの偏り,生活習慣病の増加,食料自給率の低下など),の解決に向けた取り組みがなされている。その一つである「食生活指針」とは,健康増進,QOLの向上および食料の安定供給を目指した,国民一人ひとりの食生活の実践指針として,2000年に当時の文部省,厚生省,農林水産省が連携して策定した10の指針であり,2016年の改定を経て現在に至っている。本研究では,大学生における食生活指針への関心・実行状況の実態,および食行動に関する心理的問題との関連を検討し,栄養学をはじめとした多様な分野との融合的研究に資する視点を得ることを目的とする。
【方法】
2018年7月,関東圏にある国立大学一校の学生284名に調査を実施し,無効回答のなかった262名(男性119名,女性140名,その他1名,性別未記入2名,平均年齢18.97歳,SD=1.31)を分析対象とした。
食生活指針(文部科学省他, 2016)に対応した全10項目について,自らの食生活にどの程度「取り入れたいと思っているか」(以降,“関心”)と「実行しているか」(以降,“実行”)について,それぞれ0(取り入れたいと思わない/実行していない)から10(常に取り入れている/常に実行している)で評定を求めた。各項目は次の通り: 1.食事を楽しむ,2.朝食をとる,夜食や間食を取りすぎないようにするなど,1日の食事のリズムを基に生活リズムをつくる,3.適度な運動とバランスのよい食事で,適正体重を維持する,4.主食,主菜,副菜を基本に食事のバランスをとる,5.ごはんなどの穀類を摂取する,6.野菜,果物,牛乳・乳製品,豆類,魚などを組み合わせ,ビタミン,ミネラル,食物繊維,カルシウムを摂取する,7.食塩を控えめにし,脂肪は質(動物,植物,魚由来)と量を考えて摂取する,8.日本の食文化や地域の産物を活かし,日々の食生活の中で郷土の味を継承する,9.食料資源を大切に,無駄や廃棄の少ない食生活をする,10.「食」に関する理解を深め,食生活を見直す。
食行動異常傾向の指標としては,非臨床群を対象とした測定尺度である新版食行動異常傾向測定尺度(Abnormal Eating Behavior Scale new version : AEBS-NV ; 山蔦他, 2016)を使用し,3因子全14項目について,1(全くあてはまらない)から6(完全にあてはまる)の範囲で評定を求めた。なお,AEBS-NVは女子学生を対象に作成されたものであることを意識しつつ,本研究においては非臨床群への適用度の高さを優先し,性別を問わず使用することとした。
本研究は,著者の所属機関における「ヒトを対象とした研究に関する倫理審査」の承認を得て実施された。
【結果】
分析には,HAD ver.16(清水, 2016)を使用した。食生活指針(以降,指針)の各項目への“関心”は,最も低い項目8(食文化の継承)でM=6.87(SD=2.39),最も高い項目1(食事を楽しむ)でM=8.99(SD=1.65)であった。“実行”については,最も低い項目8(食文化の継承)がM=4.00(SD=2.33),最も高い項目5(穀類摂取)がM=7.67(SD=2.29)であった。また,一要因分散分析の結果,項目1(食事を楽しむ)については,関心・実行ともに,他のほとんどの項目よりも評定が有意に高く,項目8(食文化の継承)については他のすべての項目よりも有意に低いことが示された。食行動異常傾向について,AEBS-NV得点(得点範囲14―84)はM=28.66(SD=11.73)であり,指針における項目5(穀類摂取)および項目9(食資源保護)との間に有意な負の相関が示された(関心: r=-.25, r=-.18 ; 実行: r=-.32, r=-.20)。
各指針への志向性(関心・実行の程度)と食行動異常傾向との関係について性差を含めて検討するため,指針項目ごとに,指針への志向性(関心・実行)を参加者内要因,食行動異常傾向(高・低)および性別を参加者間要因とする三要因分散分析を行った。なお,食行動異常傾向の高低については,AEBS-NV得点のカットオフポイント41点を基準に分割し,高群には男性11名,女性26名が該当した。その結果,10項目すべてにおいて,志向性の主効果が有意であり,関心の方が実行よりも高いことが示された。さらに,項目5(穀類摂取)については,食行動異常傾向の主効果が有意であり,高群の方が低群よりも有意に食指針への志向性が低いことが示された(F(1,255)=5.90, p=.016)。項目8(食文化の継承)については,食行動異常傾向と性別の交互作用が有意であり,単純主効果の分析の結果,女性のみ,食行動異常傾向高群の方が低群よりも指針への志向性が有意に低く(F(1,255)=5.71, p=.02),男性には食行動異常傾向の高低による志向性の有意な差は示されなかった。
【考察】
食生活指針の筆頭である「食事を楽しむ」ことは,特に関心・実行の程度が高かった。さらに,“関心”については,全項目において“取り入れたい”という方向性が示され,本研究対象者にとっては比較的肯定的に指針が受け入れられていた。食行動異常傾向との関連が示されたのは,「穀類摂取」と「食資源保護」であり,さらに前者は食行動異常傾向が高低による志向性の有意差が示されている。実行状況に着目すると,「食文化の継承」についての平均が“実行していない”という方向にある。さらに当該項目は,関心の程度も他の全項目より低く,食行動異常傾向と性別の交互作用も示されている。この要因の一つとして「調理」に関する知識や技能および社会的環境の問題が挙げられるかもしれない。食育における「調理学習」の重要性も指摘されており(濱口他, 2010),今後の発展的検討が望まれる。

キーワード
食生活指針/食行動異常/大学生


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