発表

2D-021

日本人用非言語的コミュニケーションに関する知識テストの作成

[責任発表者] 小川 一美:1
[連名発表者・登壇者] 木村 昌紀:2, 藤原 健:3
1:愛知淑徳大学, 2:神戸女学院大学, 3:大阪経済大学

 目 的
 対人コミュニケーションに関する知識は,全てのコミュニケーションの基盤であることから,知識を獲得することの重要性が指摘されている (Morreale, Spitzberg, & Barge, 2007)。しかし,こうした知識に関する実証的な研究や,知識の測定を試みた研究は,非言語的手がかりの知識に着目したRosip & Hall (2004) や感情に関する知識に着目したSchlegel & Scherer (2017) くらいである。小川・Hall (2018) は,Rosip & Hall (2004) が作成した非言語的コミュニケーションに関する知識を測定しうるテスト (Test of Nonverbal Cue Knowledge: TONCK) を改良したTONCK IIを作成し,非言語的コミュニケーションに関する知識は男性よりも女性の方が多いことや,教育程度が高くなるほど知識量が増えることなどを明らかにした。しかし,TONCK IIは欧米人用に英語で作成されたテストであり,また非言語的コミュニケーションには文化差があることなどから,項目内容によっては正誤が文化によって異なる可能性もある。そこで,本研究では項目内容の適否の検討も含めて,日本人の非言語的コミュニケーションに関する知識を測定しうるテストの作成を試みる。
 方 法
 調査対象者 20代から60代の男女が各50名以上となるよう株式会社インテージにオンライン調査を依頼し,522名から回答を得た。
 調査項目 (1)日本人用非言語的コミュニケーションに関する知識(日本人用TONCK II):小川・Hall(2018)が作成した27項目について邦訳を行い,さらにバックトランスレーションしたものをTONCKおよびTONCK IIの作成者であるアメリカ人が確認を行い,筆者らと議論を重ねて最終的な邦訳を完成させた。各項目に対して,正しいと思うか間違っていると思うかの二択で回答させた。(2)日本人用TONCK IIについての確信度:(1)の各項目について,どれだけ自信を持って回答したかを5段階で評定させた。(3)人口統計学的変数:性別,年齢,客観的な社会経済的地位(教育程度,年収),主観的な社会経済的地位(MacArthur Scale of Subjective Social Status; Adler et al., 2000)を測定した。教育程度は,中学校卒業レベルから大学院博士課程修了レベルまでの6段階であり,年収は100万円未満から2000万円以上の14段階で回答を求めた。主観的な社会経済的地位は,はしごの絵を呈示し,一番上が暮らし向きが最も良い状態の人々とし,一番下が暮らし向きが最も悪い状態の人々とした上で,自分はどの位置にいると思うかを10段階で回答させた。
 結 果 と 考 察
 日本人用TONCK IIの作成 回答時間が非常に短かった者や,全項目に一貫して正もしくは誤と回答していた者33名を除外し,男性233名,女性256名を分析対象とした。27項目の内,日本人データによる実証研究がなされており,結果が欧米人の結果と一致している19項目を分析対象項目とし,正答を1点,誤答を0点とした。その際,正答であっても確信度で「全く自信がない」と答えた項目については,誤答とみなした。項目反応理論を適用する前提である尺度の1次元性の検討を行うため,カテゴリカル因子分析を行った。小川・Hall (2018) は,欺瞞に関する知識の獲得傾向は他の対人コミュニケーションに関する知識の獲得傾向とは異なる可能性があることから,欺瞞に関する項目をTONCK IIから除外している。よって,本研究でも欺瞞に関する4項目を削除してカテゴリカル因子分析を行ったところ,固有値の減衰状況や因子負荷量などから1次元性が認められた。次に,項目反応理論を適用した分析を行い,項目パラメタの推定を行った。その結果,項目10と項目18の識別力が0.064および-0.009と低かったためこの2項目は削除した。以上の手続きの結果採択された13項目について,信頼性指標としてω係数を算出したところ.757であったため,この13項目で日本人の非言語的コミュニケーションに関する知識を測定することが可能であると判断し,正答率を算出し,知識量を示す指標とした。
 性別,年齢,社会経済的地位(SES)との関連 非言語的コミュニケーションに関する知識量と関連を示す人口統計学的変数を明らかにするため,性別,年齢,客観的および主観的SESを説明変数,日本人用TONCK IIを目的変数とした重回帰分析を行った。決定係数の値は大きいとは言えないが(Radj2=.043),モデルは1%水準で有意となり,年齢からの標準偏回帰係数は有意な負の値を示し(β=-.147, p=.008),主観的SESは有意な正の値を示した(β=.187, p=.002)。つまり,日本人の場合は年齢が若いほど,そして主観的SESが高いほど,非言語的コミュニケーションに関する知識が多いことが明らかとなった。一方,英語を母語とする者を対象にした小川・Hall(2018)では,女性の方が男性よりも知識量が多く,教育程度が高いほど知識量が多いことが示されたが,年齢や主観的SESとの関連は見られなかった。2010年に文部科学省がコミュニケーション教育推進会議を設置したり,2006年に経済産業省が発表した社会人基礎力にコミュニケーションに関する力が含められたりするなど,コミュニケーションに関する力の重要性が2000年代に入り強調されるようになった。こうした日本におけるコミュニケーションに対する意識の変化が,年齢が若いほど非言語的コミュニケーションに関する知識が多いという結果につながったのではないだろうか。また,主観的SESと解読力の関係性を検討した欧米人を対象とした研究では,正の関連を示す場合と負の関連を示す場合があり,関係性やメカニズムが未だ明確にされていない。コミュニケーション力の育成という展望のためには,知識という側面,行動的側面,さらには動機などの側面も含め,コミュニケーションプロセスと人口統計学的変数がどのような関係性にあるのかをより詳細に検討していく必要がある。
 本研究はJSPS科研費JP16K04273の助成を受けたものです。

キーワード
非言語的コミュニケーション/知識/人口統計学的変数


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