発表

2D-010

道徳不活性化 (Moral disengagement) 尺度日本語版の作成と妥当性の検討

[責任発表者] 古川 善也:1
[連名発表者・登壇者] 塚脇 涼太:2, 中島 健一郎:3
1:愛媛大学, 2:比治山大学, 3:広島大学

問題不道徳行動はそれが蓄積されることで社会にとって大きな損失となってくる(Weber et al., 2003)。社会認知的理論によると,内在化された道徳に基づいて不道徳行動は抑制されている(Bandura, 1999)。しかしながら,道徳的制御機能は状況や対象に応じて不活性となる。道徳不活性化(moral disengagement, Bandura, 2002; Moore, 2015)はそのような不活性化を引き起こす一連の認知メカニズムである。道徳不活性化には道徳的正当化や責任転嫁などの8つの不活性メカニズムが含まれる。道徳不活性化をしやすい個人ほど不道徳行動を起こしやすく(Moore et al., 2012),道徳不活性化は不道徳行動の有効な予測因となる。本研究は道徳不活性化の個人傾向を測定する成人対象の日本語版尺度を開発し,その妥当性を検証することを目的とする。 
研究1:因子的妥当性の検討調査対象者 研究1Aでは調査会社の18~45歳モニター420名(女性210名, Mage=32.3歳),研究1Bでは大学生243名(女性105名, Mage=19.3歳)を対象とした。
道徳不活性化尺度 尺度の元論文(Moore et al., 2012)の著者に翻訳使用の承諾を得た上で,著者が翻訳を行ったのち,英文翻訳サービス会社を通してバックトランスレーションを実施し,原版との等価性を確認して最終的な項目を決定した。尺度は8つの不活性化メカニズムを含み,それぞれ3項目ずつの計24項目で構成された。回答形式は「1: 全くそう思わない」から「7: 強くそう思う」の7件法であった。
結果 Moore et al. (2012)に基づき,8つの不活性化メカニズムの項目から1項目ずつを選抜した8項目1因子構造での確認的因子分析を行った(Figure 1)。その結果,一定の適合度が認められた(研究1A: CFI=.96, RMSEA=.07, SRMR=.03, GFI=.96; 研究1B: CFI=.91, RMSEA=.09, SRMR=.06, GFI=.94)。また,内的整合性は研究1Aでα=.85,研究1Bでα=.80であった。
研究2:不道徳行動に対する影響の検討調査対象者 研究2Aは研究1Aと同一。研究2Bは研究1Bの一部97名(女性43名, Mage=19.3歳)を対象とした。
測定尺度 道徳不活性化尺度,[研究2A]不道徳行動経験 (α=.93; Piff et al., 2012):過去1年間における勤め先での不道徳行動の経験頻度を尋ねた。[研究2B]不道徳行動シナリオ(α=.72, Piff et al., 2012):シナリオ場面において自己利益の為に不正行為を行うかどうかについて尋ねた。また,研究2Aでは共通メソッド問題を考慮し,道徳不活性化と不道徳行動との測定を2週間の間を空けて行った。
結果 研究2A,研究2Bともに道徳不活性化が不道徳行動を有意に予測することが示された(不道徳行動経験: β=.51, p<.01; 不道徳行動シナリオ: β=.45, p<.01)。
研究3:増分的妥当性の検討調査対象者 女子短期大学生180名(Mage=19.4歳)
測定尺度 道徳不活性化尺度(α=.77),ダークトライアド傾向(α=.86, 日本語版DTDD; 田村他, 2015),攻撃性(α=.80, 日本版Buss-Perry攻撃性質問紙; 安藤他, 1999),衝動性(α=.77, セルフコントロール尺度; 尾崎他, 2016),不道徳行動シナリオ(α=.75, Piff et al., 2012)。
結果 他の個人傾向に加えて,道徳不活性化尺度が不道徳行動に対する説明率を向上させるかを検討するために,階層的重回帰分析を行った。その結果,道徳不活性化尺度を加えることで決定係数が有意に増加することが示された (Step 1: R2=.23 → Step 2: R2=.29, ΔF=21.82, p<.001)。
研究4:再検査信頼性の検討調査対象者 研究4Aは研究3Aの一部86名(Mage=19.4歳),研究4Bでは研究1Bの一部94名(女性52名, Mage=19.0歳)を対象とした。一回目の調査から研究4Aは1ヶ月,研究4Bは2ヶ月の期間を空けて二度目の調査を行った。
結果 研究4A,研究4Bともに十分な再検査信頼性が確認された(研究4A: r=.78, ICC2=.78; 研究4B: r=.72, ICC2=.71)。
研究5:外的指標との関連の検討調査対象者 大学生136名(女性91名, Mage=21.0歳)。
測定尺度 道徳不活性化尺度(α=.66),対人反応性尺度(日道他, 2017)より共感的関心(α=.80),視点取得(α=.64),自由意志・運命論信念尺度(後藤他, 2015)より自由意志信念(α=.71),運命論(α=.61),Ethics Position Questionnaire (Forsyth, 1980)より絶対的道徳観(α=.82)。
結果 道徳不活性化尺度は,自由意志信念(r=-.21, p<.05)と正の相関が,運命論(r=.25, p<.01),絶対的道徳観(r=.41, p<.01)と負の相関が認められた。しかしながら,共感的関心,視点取得との間に有意な相関は認められなかった。
考察本研究の結果より,不道徳行動を予測する要因として道徳不活性化尺度の有効性と一定の尺度の妥当性・信頼性が確認された。しかしながら,関連を想定していた外的指標との相関は小さく(あるいは無相関),尺度の改善の余地は残された。

キーワード
道徳不活性化/不道徳行動


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