発表

2D-009

手を合わせても、手は打たず
-職場の謝罪行動における文化差の検討-

[責任発表者] 砂子澤 紀子:1
[連名発表者・登壇者] 藤 桂:2
1:オザックス, 2:筑波大学

 問題と目的
 近年,海外で働く日本人労働者数は増加し(外務省, 2017),同時に,日本で働く外国人労働者数も増加し続けている(厚生労働省, 2017)。こうした職場のグローバル化に伴い,様々な国籍の従業員と働く機会が増える中,環境の違いや考え方の違いから,多くの面で衝突が発生することが予想される。この解決のためには,職場内での適切な謝罪行動が重要となる。
 しかし,謝罪が必要な場面での行動もは,所属する文化によって大きく異なることが示されてきた。Barnlund & Yoshioka (1990) やSugimoto(1997)では,日本人大学生とアメリカ人大学生の間で,謝罪場面時に多く用いられる行動に差があることが示されている。また,日本人とマレーシア,アメリカとヨルダンの間でも,謝罪時の行動内容に文化差がみられることが示唆されている(クモハマド,2007;Bataineh & Bataineh,2008)。
 こうした謝罪行動の文化差は,職場という文脈でも見られることが示されてきた。例えば鄭(2006)やJafari & Tabatabaei(2015)は,社会人を対象に場面想定法による調査を行い,日本―台湾間および日本―イラン間における謝罪行動の文化差を明らかにしている。すなわち,先述のように謝罪行動が重要となる職場において,そもそも謝罪時の行動の仕方や考え方からすでに文化間での相違が生じている可能性が示唆されてきた。
 しかし謝罪の文化差に関する研究では,主に大学生が対象とされてきた。職場を対象にした研究も散見されるが,謝罪される側に焦点を当てた研究が多く,同じ職場内のメンバーに対しどのように謝罪するかという行動に焦点を当てた研究は少ない。そこで本研究では社会人を対象に,職場において謝罪が必要となる場面での行動内容に着目し,その文化差を検討する。
 予備調査
調査対象・方法:現職社会人15名(日本人8名,中国人4名,マレーシア人3名)を対象に半構造化面接を実施し,職場において,自身が実際に経験した謝罪を必要とする状況およびその際に取った行動の内容について尋ねた。
結果:得られた発言内容について,大学院生1名と大学教員1名の合議に元づいて分類した。その結果,職場における謝罪状況は,「自分に責任がある状況」と「自分に責任が無い状況」にの2種類に大別された。また,行動内容は,「直接的な謝罪」「経緯・現状の説明」「改善案の提示」「許し・理解の要求」の4種類に分類された。
 本調査
調査対象・方法:日本,中国,マレーシアの企業に所属する現職社会人を対象にQualtricsを用いたウェブ調査を実施し,日本234名,中国人104名,マレーシア人75名の回答を得た。
質問項目:予備調査の結果およびJafari & Tabatabaei(2015)に基づいて作成した,「自分に責任がある状況(自身の失敗:自責状況)」もしくは「自分に責任がない状況(立場上の引責:他責状況)」のいずれかの場面を提示し,各場面の想定を求めたうえで,その際に自身が取るであろう行動について尋ねた(6件法)。項目は,予備調査の結果に基づき9項目を作成した。質問紙は日本人には日本語版,中国人には中国語版,マレーシア人には英語版をそれぞれ作成して提示した。なお各版の作成に際しては,まず日本語版の質問紙を作成したうえで,ISPORタスクフォースによるガイドライン(Wild et al., 2005)を参考に,翻訳・逆翻訳および内容の確認を行い,中国語版と英語版を作成した。
結果:謝罪状況における行動内容に関する9項目に対し,国籍(日本,中国,マレーシア)および責任の所在(自責,他責)を要因とする2要因分散分析を行った(Table 1)。その結果,直接的な謝罪,状況の経緯やいきさつの説明,事態の原因や理由の通知,再発防止案の提案,損失に対する補償の申し出に関して,国籍の主効果が有意であった。多重比較の結果,直接的な謝罪,状況の経緯やいきさつの説明,事態の原因や理由の通知に関しては中国人は他の2か国よりも行わないことが示された。また,再発防止策の提案や損失に対する補償の申し出は,日本人はマレーシア人よりも行わないことが分かった。一方,相手の同情や共感への訴えについては交互作用が有意であり,単純主効果検定の結果,日本人は他責状況において,マレーシア人は自責状況において同情・共感に訴えやすいことが示された。かつ,他責状況において日本人および中国人はマレーシア人よりも同情や共感に訴える行動を取りやすいことが示された。
 考 察
 本研究からは,職場内でのコミュニケーションという文脈においても,謝罪行動に関して文化差が見られることが示された。また,相手の同情や共感に訴えるかどうかについては,責任の所在がどこにあるかという状況要因も関連し,特に日本人とマレーシア人の間で大きく異なることが示唆された。

キーワード
謝罪行動/文化差比較/補償


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