発表

2D-007

協力規範と協力行動の関係を弱める住居流動性
自己の流動性 vs. 他者の流動性

[責任発表者] 竹村 幸祐:1
[連名発表者・登壇者] 福島 慎太郎#:2, 内田 由紀子:3
1:滋賀大学, 2:東京女子大学, 3:京都大学

背景と目的
住民同士の相互協力を促す規範(協力規範)は,引越しの多い流動的なコミュニティでも機能するのだろうか?約400のコミュニティのデータを分析した竹村他(2017)は,協力規範を感じる度合い(協力規範知覚)と協力行動の関係が住居流動性(引越し回数)に干渉されるか検討した。その結果,協力規範知覚と協力行動の正の相関は,1) 個人レベルの住居流動性には干渉されないが,2) コミュニティ・レベルの住居流動性に干渉される(住居流動性が平均的に高いコミュニティでは,協力規範知覚と協力行動の関係が弱くなる)ことを見出した。従来は,流動的な個人が規範を無視しやすいと仮定されていた(Su et al., 2016)が,これらの知見は,より複雑な集合的プロセスの可能性を示している。すなわち,流動的な個人が規範を無視するのではなく,流動的な他者に囲まれることで「他者は規範を無視するかもしれない」との不安がコミュニティ内で高じ,その不安が規範遵守を躊躇させるという可能性である。
本研究は,上述の竹村他(2017)の概念的追試である。協力規範知覚・協力行動・コミュニティ・メンバーへの信頼(メンバーの人柄への信頼)を測定しつつ,自分の住居流動性と周囲の他者の住居流動性を独立に操作する実験を行った。

方法
参加者: 参加者はネット調査会社の登録者で,2(自己流動性: 低 vs. 高)×2(他者流動性: 低 vs. 高)に無作為配置された(参加者間要因配置)。本研究のデータ収集は2回行われた。データ1は309人,データ2は別の280人から有効回答を得た。
手続き: 参加者はまず,自己流動性と他者流動性のマインドセットを操作する記述課題に取り組んだ。この課題では,ある町内で理想の仕事に就いたとして,その後の生活を想像して書くよう求められた。データ1での自己流動性の操作は,その仕事に就くためにその町内に越してきたばかりであり,2年後にまた引越す状況(高流動)か,長年住んできた町内でその仕事に就き,最短でも10年そこに住み続けることになる状況(低流動)を想像するかで操作された。これはOishi et al. (2012) の操作をベースとしている。この操作と並行して,周囲の他者の流動性が操作された。参加者は,毎年多くの人々が転出入する町内に住んでいる状況(高流動)か,引っ越す人が滅多にいない町内に住んでいる状況(低流動)を想像した。データ2では,自己流動性の設定が一部変更された。具体的には,1年程度でまた引っ越すことを想像する(高流動)か,これから先もずっとそこに住み続けることになると想像する(低流動)かで操作された。
この操作の後,参加者は,現実に住んでいるコミュニティでの協力行動についての2項目(e.g., 私は,町内(集落)の人が困っていたら手助けをする),協力規範知覚4項目(e.g., この町内(集落)には,お互いの役に立つことを求める雰囲気がある),コミュニティ信頼2項目(e.g., 私は同じ町内(集落)に住む人たちを信頼している)に回答した(全て1[全くそう思わない]~5[強くそう思う])。

結果と考察
データ1と2をプールし,2つのデータ間で差がないか検討することで,頑健な知見を探った。分析の結果は,竹村他(2017)の知見を概念的に再現した。協力規範知覚と協力行動の正の関係(b = .13, p = .004)は,自己流動性(-1 = 低,1 = 高)に干渉されなかった(交互作用b = .00, p = .919)。一方,他者流動性(-1 = 低,1 = 高)が干渉し(交互作用b = -.11, p = .013),他者高流動条件で協力規範知覚と協力行動の関係が弱まった。この効果は,データ1か2か(0 = データ1,1 = データ2)での違いは見られなかった(3要因交互作用b = .08, p = .214)。以上の結果は,規範の協力促進効果を住居流動性が弱めるのは,流動的個人による規範無視が原因ではなく,流動的な他者に囲まれることに起因することを示している。
さらに,協力行動とメンバーへの信頼の正の関係(b = .55, p < .001)も,自己流動性に干渉されず(交互作用b = -.02, p = .718),他者流動性に干渉された(交互作用b = .10, p = .021)。干渉効果は正で,メンバーへの信頼と協力行動の正の関係は他者高流動条件で強まった。この効果も,データ1と2で差はなかった(3要因交互作用b = -.09, p = .149)。以上の結果をまとめると,多くの人が流動するコミュニティで協力行動を支えるのは,他者の行動の外的コントロール(規範)への期待ではなく,他者の内的要因(人柄)への信頼であると考えられる。

引用文献
Oishi, Miao, Koo, Kisling, & Ratliff 2012 J Pers Soc Psychol, 102, 149-162. / Su, Chiu, Lin, & Oishi 2016 PLoS ONE, 11, e0167053. / 竹村・福島・内田 2017 社会心理学会第58回大会

キーワード
協力行動/規範/住居流動性


詳細検索