発表

2C-018

向社会的行動が関係性欲求を高める効果は長続きしない?

[責任発表者] ゲルゲル クラウディア:1,2
[連名発表者・登壇者] 橋本 剛:3
1:名古屋大学, 2:日本学術振興会, 3:静岡大学

問題と目的
 向社会的行動を実行することは行為者のウェル・ビーイングを促進する効果があり(Curry et al., 2018),その媒介要因として,基本的心理欲求の充足があることが指摘されている(Martela & Ryan, 2016)。向社会的行動を実行した場合だけでなく,過去に行った親切行動を想起した場合でもポジティブ感情が高まることが示唆されている(Wiwad & Aknin, 2017)。しかし,向社会的行動のポジティブな効果を検討したほとんどの研究では,対人的相互作用が含まれていないような出来事が統制条件として用いられている(Layous et al., 2013)。そのため,ポジティブ感情が高まった原因が向社会的行動であるか,または,対人的な相互作用であるかが明らかになっていない。
 本研究では,親切行動の実行を,向社会的な要素を含まない対人的相互作用と比較し,向社会性の独自の効果を検討する。また,媒介要因として,基本的心理欲求の充足に着目する。さらに,向社会的行動の効果が文化の影響を受けるかどうかを検討するために,日本人とアメリカ人を対象に実験を実施する。
方法
 参加者 クラウドソーシングプラットフォームに登録されている一般成人283名(日本人133名; アメリカ人150名)が実験に参加した。回答に不備が見られた参加者を除き,日本人111名(男性67名, 向社会的行動群56名, 平均年齢40.50, SD=11.2)とアメリカ人129名(男性70名, 向社会的行動群45名, 平均年齢37.53,SD=11.65)を分析対象とした。
 手続き 参加者をランダムに2つの実験群に割り当てた。向社会的行動群に,知人に対して親切行動を行った最近の出来事を,統制群には,知人と長い会話をした最近の出来事を思い出すように求めた。その後,基本的心理欲求尺度(Sheldon & Hilpert, 2012)を利用し,欲求充足の程度を測定した(日本 関係性欲求α=.75,有能性欲求α=.77,自律性欲求α=.49; アメリカ 関係性欲求α=.81,有能性欲求α=.83,自律性欲求α=.82)。日本では,自律性欲求の信頼性係数が低かったため,以降の分析から除外した。現在の感情について, PANAS (Watson et al., 1988; 川人 他,2011)を利用して測定した (日本 ポジティブ感情α=.82,ネガティブ感情α=.92; アメリカ ポジティブ感情α=.94,ネガティブ感情α=.91)。
結果
 現在の感情 ポジティブとネガティブ感情に対する向社会的行動(あり・なし)と文化(日本・米国)の影響を検討するために,2要因分散分析を行った。ポジティブ感情に関して,向社会的行動(p=.40)と文化(p=.15)の主効果も,交互作用(p=.88)も有意ではなかった。ネガティブ感情に関して,向社会的行動の主効果(p=.50)と交互作用(p=.84)が有意ではなかったが,文化の主効果が有意だった(F(1, 236) = 213.58, p<.001, ηp2=.475)。アメリカ人(M=1.31, SD=0.50)に比べて,日本人のネガティブ感情が高かった(M=2.72, SD=0.95)。
 基本的心理欲求 欲求充足に対する向社会的行動と文化の影響を検討するために,2要因分散分析を行った。関係性欲求に関しても,有能性欲求に関しても,向社会的行動の主効果(p=.22, p=.41)と交互作用(p=.33, p=.87)が有意ではなかったが,文化の主効果が有意だった(F(1, 236) = 41.80, p<.001, ηp2=.151; F(1, 236) = 132.22, p <.001, ηp2=.357)。日本人(M=3.27, SD=0.73; M=2.61, SD=0.70)に比べて,アメリカ人の欲求充足が高かった(M=3.91, SD=0.79; M=3.78, SD=0.84)。
 回答時間の調整効果 回答時間が長くなると想起課題の影響が弱くなるかどうかを確かめるために,向社会的行動,文化と回答時間の交互作用を検討した。時間を中心化し,回帰分析を行った結果,関係性欲求充足に関して,向社会的行動と時間の交互作用が有意だった(β=-.240, p=.03)。単純傾斜分析の結果,実験群において時間の効果が有意で(p=.03),回答時間が長くなると関係性欲求充足が低くなることが明らかになった(Figure 1)。さらに,文化との三次の交互作用が有意傾向で(β=.182, p=.09),時間の調整効果は日本において顕著に見られた。
考察
 本研究では,向社会的行動を思い出すことでポジティブ感情が高まり,ネガティブ感情が減少されるという仮説は支持されず,心理的欲求充足に対しても向社会的行動の有意な影響が見られなかった。しかし,回答時間を考慮し分析した結果,回答時間が短かった参加者の中で,向社会的行動を思い出した人の方が関係性欲求充足が高い結果となったが,その傾向は時間の経過とともに減少した。つまり,向社会性の要素を含んだ出来事の想起が関係性欲求充足を高める効果は極めて短期的なものである可能性がある。

キーワード
向社会的行動/関係性欲求/文化


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