発表

2C-017

ASDグレーゾーン学生が認知する小集団活動時の発言抑制原因

[責任発表者] 原田 知佳:1
[連名発表者・登壇者] 土屋 耕治:2
1:名城大学, 2:南山大学

目 的
 今日,教育現場では,発達障害の診断は受けていないものの,その境界にいる子どもや,通常学級に在籍する発達障害の疑いのある子どもなど,グレーゾーンと呼ばれる児童・生徒・学生への支援に悩む教員が増えている(e.g., 矢野他,2015)。発達障害については多様な知見が蓄積されつつあるが,とりわけグレーゾーン者の集団内での振る舞いや,グレーゾーン者が集団の中で活躍するための環境づくりに資するアプローチについては未だ検討の余地が残されている(須藤, 2018)。教育現場では,グループワークや小集団になって共同作業を行う機会も多いが,小集団活動においては,他者の感情推測能力や自己制御能力の低さといったASD(Autism Spectrum Disorder)傾向の高いメンバーの存在が,集団パフォーマンスを抑制する形で働くことが示唆されている(原田・土屋, 印刷中;Engel et al. (2014)の公開データに基づく再分析結果)。また,Reading the Mind in the Eyes Test (RMET; Baron-Cohen et al., 2001)で測定されたASD傾向は小集団活動時の発言量と関連し,ASD傾向が高いほど小集団活動時の発言量が少ないことが確認されている(土屋・原田, 2013)。では,ASDグレーゾーン学生は小集団活動時になぜ発言を抑制してしまうのであろうか。本研究では,この点を明らかにするため,ASDグレーゾーン学生本人が認知する小集団活動時の発言抑制原因を検討する。具体的には,RMETでASD傾向を測定した上で,小集団活動時の発言抑制に関する尺度を測定し,両者の関連を検討する。

方 法
参加者 大学生257名 (女性158名,男性99名)
質問紙 (1) ASD傾向(36枚,選択肢各4つ): 目の領域の写真を見て,ターゲットの感情について評定させるRMETアジア版(Adams et al., 2009; 吉川左紀子氏・野村光江氏により作成)を用いた。(2) 小集団活動時の発言抑制原因:畑中(2003)の発言抑制尺度を用いて,「3人以上のグループで話をする際(サークル・部活動,委員会活動,授業中のグループワークなど)に,あなたに最も当てはまると思う番号1つに〇をつけてください」と教示のもと,6件法で尋ねた。

結果および考察
 発言抑制尺度について因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行ったところ,2項目削除することになったものの,先行研究通りの5因子が確認された(α=.65~.87)。具体的には,相手に対する配慮や思いやりから発言を抑制する「相手志向(e.g., 相手を傷つけてでも言いたいことは言う【逆転項目】)」,自分にとって都合の悪い結果を避けるために発言を抑制する「自分志向(e.g., 自分の発言を否定されるのが怖くて,発言を控えることがある)」,相手との関

係を避けるために発言を抑制する「関係距離確保(e.g., 自分に深入りしてほしくないときは話す量が減る)」,規範やその場の状況に合わせるために発言を抑制する「規範・状況(e.g., 場を乱すような発言は差し控える)」,不本意ながら発言できないといった「スキル不足(e.g., 自分の気持ちをはっきりつたえられないことがある)」の5因子である。
 調査対象者を,RMETのM (25.86) ±1SDでRME高群と低群に分類した。RME低群が,ASD傾向が高いことを意味する。RME得点の高低で小集団活動時の発言抑制原因に違いがあるかを検討するため,発言抑制尺度の5因子それぞれについて,t検定を行った。その結果,相手志向で有意差が示され,RME_低群の方が高群よりも,相手志向の発言抑制を行わないことが確認された(t(73)=2.28, p<.05)。また,関係距離確保で有意傾向が示され,RME_低群の方が,相手との関係を避けるために発言を抑制する傾向が高いことが確認された(t(73)=1.70, p<.10)。
 以上より,ASD傾向が高い者は,小集団活動時に,自分のスキル不足により発言できないと認知しているわけではなく,相手と距離を保つために発言しないと認知している傾向があること,また,相手に配慮した発言抑制ができないと認知していることが示唆された。後者については,相手志向の項目がすべて逆転項目で構成されていることからも,ASD傾向が高い者は相手に配慮せずに発言をしてしまうと認知していると言い換えることも可能である。今後は,本人が参加する小集団活動時の実際の映像を見せながら,小集団活動時の困難さ認知やサポート要求を尋ねることも有益だと考えられる。また,VR(Virtual Reality)を用いて,グレーゾーンの子たちが,小集団活動時の規範認知にどういったバイアスが生じやすいのか,他メンバーからのどういった働きかけがパフォーマンスにポジティブな影響を与えるのか等の具体的かつ詳細なプロセスを検討することも有益であろう。

キーワード
ASDグレーゾーン/他者感情理解/小集団活動


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